第7話 翼をください-7

 数日しても由美子は登校して来なかった。松本は、検査に異常がなかったので翌日から来ていた。由美子のいない教室は、松本には居心地が悪かったのだが、妙にみんなが声を掛けてくれた。風見も事件のことをとやかく言うわけではなく、気軽に挨拶をしてくれた。退学を覚悟していた松本だったが、何もお咎めはなく、職員室に呼ばれることもなかった。拍子抜けしたような日々が続いていた。


 放課後、松本は急いで教室を出た。由美子の様子が知りたかったので、隣の旭学園高校へ行って直樹に直接訊ねてみるつもりだった。

 校門を出るとそこに直樹が立っていて、駆け出してきた松本を認めると手を振りながら近づいてきた。不意の出来事に松本は当惑しながらも、自分の頬が赤くなるのを感じた。

「この間は、どうもありがとう」

 そう言われて松本は混乱した。自分の巻き添えで怪我をさせてしまったはずなのに。

「あ、あの、あたし今から、行こうと思ってたんです」

「オレのとこ?」

頷きながら松本は続けた。

「由美ちゃんずっと休んでて、どうしてるのか、と思って。あたしのせいで怪我させてしまったのに」

 直樹は大きく笑うと、

「そんなこと、気にしなくてもいいよ。由美子は元気だから」

それを聞いて松本は少し安心した。

「でも。実は、由美子にこれを頼まれたんだ」

直樹は手紙を差し出した。

「これは?あたしに?」

直樹は頷きながら言った。

「由美子は、アメリカに行くんだ」

 一瞬、言葉の意味が取れなかった。手紙を受け取りながら出た言葉は、どうして、というひと言だった。

「由美子は手術をしなければならないんだ」

手術?松本の頭の中で、必死で、言葉の意味を理解しようとしていた。

「由美子が言ってたよ。裕美さんのおかげで、勇気が出たって。楽しかったって。きっと、また、帰ってくるから、伝えておいて欲しいって」

「いつ?いつ、帰ってくるの?」

「2、3カ月ぐらいじゃないか。また、帰ってきたら、友達になってやってくれ。あいつ、友達がいないから」

「友達なんて。あたしなんか、友達なんて」

「由美子はお友達だって言ってたよ。嫌なの?」

直樹はいたずらっぽく笑いながら顔を寄せて訊ねた。松本は顔を赤らめながら首を振った。直樹は、よかった、と笑いながら立ち去ろうとした。

「とりあえず、読んでおいてよ。また、手紙が来たら持って来るから」

「いつ。いつ、出発するんです」

「明日。でも、今、東京にいるから」

「そう……、なんですか」

直樹は手を振りながら、

「こないだは、かっこ良かったよ」と言い、帰って行った。

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