第5話 鬼神流の成果
「……っ!」
骨のクモ共は本物のクモ宜しく壁を這う事も出来るらしく、天馬のいる3階の教室だろうとお構いなしに窓を割って侵入してくる。
「わあぁ!? に、逃げろぉ!」
「逃げるってどこへ!?」
「きゃああああ!! 助けてぇっ!!」
一瞬でパニックになる級友たち。今まで奇異の目で見られたくなくて鬼神流の事は秘密にしていたが、事ここに至っては躊躇っている場合ではない。
天馬は咄嗟に黒板の方に駆け寄り、映写用のスクリーンを下ろす為の引っかけ棒を手に取った。頼りないが金属製である程度の長さの物が他に無い。
他のクラスメイト達は皆出入り口の方に殺到しているのでスペースは充分だ。蹴倒された椅子や机が散乱しているが、こんな物は山で修行してきた天馬にとって障害物にもならない。
(まさか親父の修行に感謝する日が来るなんてな……!)
骨クモの一体が天馬に狙いを定めて襲い掛かってくる。だが天馬は冷静にその飛びつきの軌道を見切って、半身を引くようにして躱した。外で生徒たちを襲っているのを見て、こいつらの動きが(天馬にとっては)それほど脅威でない事は解っていた。
だが問題はそれ以外にある。
「ふっ!」
天馬は鉄棒を旋回させて骨クモの脚に叩きつける。幸いというか見た目通りというかそこまでの強度は無かったらしく、天馬の鋭い一撃を受けて骨クモの脚が何本か欠損した。だが骨クモは何ら痛痒を感じていない様子で、脚が欠損してるにも関わらず再び飛び掛かってきた。
「ち……!」
そう。問題はこいつらが尋常な生物ではないだろうという点だ。脚が欠損するようなダメージを負ったら普通の生物なら激痛やショックでのたうち回るはずだ。だがこいつには全く効いている様子が無い。
やはり通常の生物相手と考えない方が良さそうだ。
(だったらこいつはどうだ……!)
天馬は再び骨クモの飛びつきを躱すと、今度は鉄棒を
髑髏の頭にヒビが入って砕き割れる。すると骨クモはガクガクと不自然に身体を震わせて、やがて眼窩の奥に揺らめいていた青い炎が消えて、まるで糸が切れた操り人形のように崩れ落ちた。
(……! いけるか!)
どうやらあの髑髏の頭を叩き割れば倒せるようだ。そう確信した天馬は続いて飛び掛かってきた他の骨クモにも、カウンターで鉄棒を額に叩きつけてやった。やはり動かなくなる骨クモ。
一体一体は彼にとって左程脅威ではないが、如何せん数が多い。ここに踏み止まって戦うよりは、この学校からの脱出方法を模索した方が現実的だ。
そう結論付けて3体目の骨クモを倒した後に廊下に飛び出した天馬だが、そこに広がっていた光景を見て思わず絶句してしまう。
壁も天井も、そこら中骨クモだらけであった。そして床には骨クモに襲われて事切れた生徒や教師たちの死体と、彼等が流した血で埋め尽くされていた。それはまさに地獄絵図であった。まだ僅かに生き残っている生存者たちの悲鳴や怒号などが廊下に響き渡る。
(くそ……何て事だ!)
天馬はこの時点で級友たちの生存が絶望的であると悟った。そもそも敵の数が多すぎて、どうしても彼一人で守れる人数には限界がある。
(……!! 茉莉香! 茉莉香は……!?)
守るという意識で思い出した。天馬は博愛主義者という訳ではない。可能であれば全員守りたいが、誰か一人選べと言われたら迷うことなく茉莉香を選択する。彼は級友たちの冥福を祈ると、茉莉香の元に赴くべく彼女の教室へと急いだ。
途中で襲ってくる骨クモを返り討ちにしながら階段を駆け下りて、二階にある茉莉香のクラスへと急ぐ。最悪の事態はなるべく考えないようにする。
二階もやはり阿鼻叫喚の地獄絵図であったが、今は茉莉香が優先だ。天馬は他の生存者たちに心の中で謝罪しながら駆け抜ける。そして遂に茉莉香の教室に到達した。
(頼む……無事でいてくれ!)
彼は実家の本尊である不動明王に祈りながら、開きっぱなしとなっているドアから中に踏み込んだ。そこには……
「――天馬!?」
「茉莉香っ!」
生き残っている何人かの級友を後ろに庇いながら、取り囲んでいる骨クモ達相手に金属バットを振り回して寄せ付けずにいる茉莉香の姿があった。
とりあえず彼女の無事を確認して、天馬は腰が砕けるほどの安堵を感じた。そうだ。武術の経験は無いとはいえ身体能力で天馬をも上回り、しかも何やら神の力を宿してもいるらしい茉莉香が、こんな所でこんな奴等に殺されるはずがない。
だが安堵してばかりもいられない。合流できたからには今度はこの地獄から無事脱出しなければならないのだ。
「茉莉香、もうちょっと持ち堪えろ!」
「……! うん!」
茉莉香もまた安堵したように嬉し気な返事を返す。天馬は鉄棒を構えて踏み込む。
「おら、化け物ども! てめぇらの相手はこっちだ!」
敢えて大声で挑発して骨クモ達の注意を少しでも茉莉香達から逸らす。その効果があったのか、何体かの怪物が天馬の方に振り返る。彼は敵が体勢を整える前に奇襲を掛け、骨クモの一体の額を叩き割る。
崩れ落ちて動かなくなる怪物。茉莉香が息を呑んで目を瞠る。他の骨クモが飛び掛かってくる。天馬はこれまで散々戦った事もあってこいつらの動きを既に見切っていた。
「ふっ!」
回避しがてら鉄棒を旋回してカウンターで一撃。髑髏を打ち砕く。更にもう一体は飛び掛かる前に突きで額を撃ち抜いた。最後に残った一体も全く怯む事無く天馬に飛び掛かろうとするが……
「えぇいっ!」
「……!」
隙ありと見た茉莉香が電光石火の勢いで飛び出して、骨クモの髑髏に金属バットを打ち下ろす。それは狙い過たず醜い髑髏を砕き割って、怪物は動きを止めて崩れ落ちた。
「なるほど、こいつらあの顔を砕けば倒せるのね!」
「まあ、そうだけど……」
天馬の戦いを見て怪物の弱点を見抜いて自分から攻撃を仕掛けるとは。いくら身体能力に自信があるとはいえ、その大胆不敵さに天馬は呆れてしまう。
「とにかく無事で良かったよ、茉莉香」
「それはこっちの台詞よ! 本当に良かった。それに助けに来てくれてありがとう、天馬!」
感極まったらしい茉莉香がガバッと抱き着いてくる。高校に入って以来こんなに彼女と密着した事は無かったので、天馬はこんな時ながら若干動揺してしまう。
「ね、ねえ、茉莉香! 早く逃げようよ! その子がいてくれれば逃げられそうだし!」
「……!」
その時茉莉香が庇っていた女生徒達が脱出を促してくる。数は3人だが全員女子のようだ。その声で正気に戻った天馬は、若干の名残惜しさを感じつつも慌てて茉莉香から離れた。
「あ、そ、そうね。まずはここから無事に逃げないとね」
茉莉香も状況を思い出したようで、少し顔を赤らめて話題を変える。というかそれが本題だ。天馬も頷いた。
「そうだな。と言っても学校の敷地ごとあのへんな黒い膜に覆われてて出られないっぽいぜ」
「皆スマホ持ってる? 電話は通じるかな?」
茉莉香に聞かれて級友たちが慌てて自分のスマホを取り出して警察や自宅に掛ける。しかし……
「だ、駄目! 皆圏外になってて繋がらない……!」
泣きそうな彼女らの言葉に天馬も自分の携帯を確認してみるが同じように圏外となっていた。茉莉香が顔を顰める。
「駄目か……。じゃあ職員室はどうかな? 固定電話なら通じるかも」
「そうだな。他に当てもないし行ってみるか」
当然職員室にいた教師が外部に電話を掛けるくらいはしているだろうが、天馬の言う通り他に指針がないのでとりあえず職員室に向かうという事で一致した。
「よし、じゃあ俺が先頭に立つから少し離れて付いてきてくれ」
余り密着されていると長い鉄棒を振り回すのに邪魔なので、天馬は護衛というより
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