第2話 魔法学

魔術というものがこの世界に現れたのは数百年前、起源は国や宗教で語られているものが異なり、学問としてはまだ若く解明されていないことの方が多いと言っていい。


魔術は争いによって発展した。効率、威力が向上し、扱える人間も増加していった。


そんななか結成されたのが魔術院と呼ばれるこの国――キタークス――における最高峰の魔術研究機関であった。

魔術院に似た機関はそれぞれの国に存在し、その規模が国力を表すわかりやすい指標となっている。

それらの機関が対諸外国への抑止力にも、国の軍事力にもなり、今は大きな国同士での争いは鳴りを潜めている。


そして、魔術院には大きな問題があった。

今現在魔術院では魔術は発見はされど発明までには至っていないという点である。


魔術には何が必要で何をエネルギーとしてどうして人によって使えないことがあるのか。

つまり、魔術発動の法則――――が分かっていなかった。


それから、魔術院には魔術学とは別に魔法学を研究する役職が生まれた。


こうして、魔術院には国力・軍事力としての魔術師と研究者としての魔術師が在籍することとなった。




のちにキタークスにと呼ばれる男が生まれた。そして、その男の存在が魔術院に対して様々な影響を与えることになる。



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ラトルの荷物は、数日分の簡易食料と一日は持ちそうな水、衣服を入れたリュックサックのみであった。

元々物を多く持つことが嫌いだったからか、自分の研究室を整理してみたら自分のものと呼べそうな物はそのくらいしかなかった訳である。


ラトルが立ち寄ったのはシャラという街だった。住居街というより商業が盛んな街で、街の入り口から活気に溢れていた。どこからでも客を呼ぶ声や、商品の紹介する声が聞こえてくる。


獣人と呼ばれる種族は耳や角をフードや形のある被り物で隠す傾向がある。そうでなくても日が高くなっているからかラトル同様フードを深く被る人は少なくない。



「いい匂いだ」

街の中心を通る一本道は食べ物の屋台でいっぱいだった。どうやら、道ごとに売られている物が違うらしい。


長距離の移動でお腹が空いたラトルは、焼けた肉のいい匂いのする屋台へひっぱられていく。

そこには、大ぶりにカットされた肉が串に刺されて売られていた。

大柄でスキンヘッドの店主が「ナイダガラの串肉だよ。おいしいよ」と大声を張り上げている。

一つもらおうと店の前まで行くと、ラトルは店主と目が合った。


店主は一瞬顔をしかめて、すぐ元の笑顔に戻った。

「何本ですか?」

店主の声は冷静を装ってはいたが、不自然に声が上がっていた。

「ああ、一本もらいたい」

料金を渡し、商品を受けとるとラトルは足早にその場を去った。先ほどまでの浮かれた気持ちは完全に消え失せた。



当然と言えば当然か、とラトルは思う。魔術院という機関は国の力そのものといってもおかしくはない。そこから追放されたということは罪人とは言わないまでも国に対して不利益な存在だということだ。

そしてラトルの記憶を辿っても、魔術院を追放された者など聞いたこともない。


どこまで追放の話が伝わっているか分からないが、一商人が知っていたとなると、国全体に伝えられていたとしてもおかしくは無いように思えた。



(必要な物を買ってすぐにでも街を出よう)

ラトルは被っていたフードをさらに深く被り直した。

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