第9話 連鎖する②

 あいらさんが屋上から飛び降りてから、マスコミは連日報道した。『ごーすと・ぷりんせす』でいじめがあったんじゃないかとか、無責任なコメンテーターが事務所やメンバーをバッシングする。

 売れる前はこんな事、一度も経験したことが無かったけど、正直いって本当に精神的に参ってしまった。

 だって、週刊誌のライターっぽい人がマンションの前で様子を伺っているのがわかるから、本当に嫌になるだもん。うかつに外に出られなくて買い出しは全部、杉本さんに行ってもらっているから食事や、日用品には困らないけど……ストレスが溜まって仕方ない。


 それに、あいらさんが飛び降り自殺をする前に動画を撮ってSNSであげている人がいるって聞いたから余計に気分が悪くなった。

 はっきりいってあんな都市伝説より人間のほうがよっぽど怖いよ。ファンもアンチも勝手な事ばかり言って滅入ってしまうから、琉花はSNSの通知も切ってニュースやワイドショーを見るのをやめた。


 突然のリーダー急死で、収録した仕事以外は白紙になってしまって急に暇になった。

 かと言って、実家に戻ったらパパとママに迷惑が掛かるし、あいらさんが死ぬ直前まで通話していた雨宮と話すのも気が引ける。

 初対面なのに、最後に話したのが雨宮だったから、かなり根掘り葉掘り聞かれたらしい。

 あいつをからかうと楽しいし、話してるとほっとするけど……今は不謹慎だ。あいらさんが死んじゃったのは、雨宮のせいじゃないけどきっとトラウマになっていると思うもん。

 梨子さんに相談してみようかな。

 でも、きっと凄く琉花の事を心配して気遣ってくれると思うから、それが今は逆に辛く感じちゃう。


「警察は一体何してんのよ。誰があんな趣味の悪い嫌がらしたの?」


 そう言って見る気のないドラマを流しながらベッドに倒れ込んだ。心のどこかで、あれが悪意のある悪戯と言うだけですまされるような事じゃないって事は分かっていた。

 たぶんもっと……純粋な殺意に近いようなもので、霊的なものなんだって。本当のことを言っちゃうと、あいらさんと琉花はあんまり性格が合わなかった。喧嘩けんかとかは無かったけどお互い距離を感じていたと思う。

 でも、同じユニットで頑張っていたし、同じ事務所の先輩でもある人が亡くなって、平気なわけない。


「こうやって、じっとしてるのって琉花の性格に合わないんだよね」


 ベッドの上で寝返りを打つと、自分に何か出来ないかと考えて、杉本さんにあいらさんに送られてきた例のメールを転送するように頼んだ。

 最初は『あんな事になってしまった原因のものを琉花ちゃんに渡すのは気が引けるし、もう首を突っ込むのはやめた方がいい』と渋られた。

 杉本さんは、あいらさんが自殺してしまった今でも、オカルトメールには半信半疑だけど責任は感じているみたいで憔悴しょうすいしきっていた。

 だけど、自分も調べたいと粘り強く何度も交渉すると根負けしたようにメールを転送してくれた。


『雨宮さんも視れなかったんだから、琉花ちゃんも無理なんじゃないか? 君の気が済むならそれでもいいけど、もうここから先は大人に任せておきなさい』


 釘を刺すようなメッセージも添えられている。

 杉本さんは、マネージャーとしていろんな対応に追われていて忙しそうで、琉花の相手してられない感じなんだけど、心配してくれているのはわかった。

 大人に任せなさいなんて、もしかしたらあいらさんの家族が警察に被害届けを出しているのかも知れない。だけど、ただのチェーンメールみたいなものに、警察が動くのかな?

 琉花は改めて『闇からの囁き』のURLを入手する事が出来た。


「よし、やるか……繋がっちゃったら怖いけど、繋がったら何か情報を見つけられるかも」


 そう言うものの、液晶画面と何分かにらめっこしていた。

 本当は凄く怖い、絶対に繫がらないだろうと思っていても指がなかなか動かない。URLを一度、クリックしたけどやっぱりエラーになる。


「はぁ……、やっぱりそうだよね」


 そう言って、もう一度クリックしたけどやっぱり存在していないのか、期限切れなのかサーバーが落ちているのかよくわかんないけど繫がらない。

 もしかしてこのWEBサイトは、やっぱり直接メールが届いた人でないと繫がらないのかな、と思ってもう一度アクセスしてみた。


「え?」


 携帯の真っ白になったかと思うと、文字化けした言葉の羅列が画面の上から下まで流れていく。

 そしてその直後に砂嵐が広がって、プツンと画面が切れ、暗くなった液晶画面に誰かの顔が浮かんだような気がして振り向いた。


「な、なに! 誰!?」


 振り返っても誰もいなかった。

 当たり前だけど、この家には自分しか住んでない。凄く怖くなったけど、目の端に何か写ったような気がして液晶画面を見た。

 四人の黒い人影のようなものがぼんやりと覗き込む。まるで水中で話してるようにもごもごとしていて、いったい何を話しているのかわからないけど、時々笑い声が聞こえた。

 それに交じる苦しそうな呼吸音。

 場面は変わって8ミリフィルムの映像のようなものが映し出される。鏡の前に映るブレザー姿の女の子。その子の顔が左右前後に激しく揺れて肌色が伸びてしまっている。そして、二匹の鳥が夕暮れの空を飛んで、ああ、琉花も空を飛びたいなと思った。

 その直後、精気の無い瞳孔が画面一杯に広がった。

 男か女かわからないような、虚ろで焦点の合わない目が自分を見ているようで気味が悪くなって、プラウザバックしようとするけどできない。電源を切ろうとしても、死んだような黒目のアップのままフリーズしている。

 それと同時に地の底から聞こえてくるような、苦しそうで不気味な呼吸音が大きくなってきた。


「いやぁぁ!!」


 思わず悲鳴をあげて、携帯を壁に叩きつけた。とにかく気持ち悪い映像を消したい。


『ねぇ』


 呼びかけるような女の子の声が聞こえたと思ったら、呼吸音も無くなり携帯の画面も再起動していた。

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