【第二部】ディストピアをディストピアと呼ぶこの世界は、ディストピアではないのかな。
コンノ・ユカル
1
ブブブッ
トクタケ・5シマ
「はい、もしもし。お疲れ様です。」
マシマ・ユ9ロ
「首尾はどうだ。」
トクタケ
「ギリギリ間に合いました。もうじきバンクに到着します。」
マシマ
「ご苦労だったな。」
トクタケ
「いえいえ。でも、ほんとにこの方です?確保した時、体の方は牛丼まみれでしたよ?もう臭いやらグロいやらで、・・・」
マシマ
「それは偶然だ。それよりバンクに着くまで油断するなよ。くれぐれも奴らに勘づかれるな。」
トクタケ
「はい、了解しましたよ。」
プツ
_____
トクタケ
「やぁ、おはようございます。寝起きは良い方でしょうか?」
???(僕)
「う・・・ぬぬ・・・・」
トクタケ
「見た感じは悪くないですが、見た目では何もわかりませんからね。気分はどうです?」
???(僕)
「ここは??ここがバンク?」
僕は、周りを見回した。天井の高い、洋風の部屋にいた。銀行っぽさは皆無だった。大きな四角い窓から陽光が適度な量差し込み、もし今ちょうど昼ごはんを食べ終わっていたなら「ああ、今日もいい天気だな。コーヒーでもいれるか。」なんて言っていたと思う。
トクタケ
「そうです、コンノ君。ここはboxter & newz cyborg研究所。通称BANC。通称と言っても、こう呼ぶのは内輪だけですけどね。ふふ。」
コンノ・ユカ6
「バンクって何・・いや、その前に、僕、どうなったの?目は見えてるし、しゃべれる・・・、椅子に座っている。いや、違う、これは車椅子か?僕は、生きてる??」
トクタケ
「もちろん、君はげんきです。この上なくね。」
コンノ
「僕は、西日暮里にいて。牛丼を買って・・・・」
トクタケ
「あぁ・・そうでしたね・・・。大盛り2つくらいでしょうか。あれは臭かった・・・。」
コンノ
「歩いてたはず。僕は友達の家に向かって歩いていた・・・それで、車に轢かれた。でも・・・」僕は初めて、自分の体の異変に気づいた。
「この手・・・義手??企業ロゴのようなシールが貼ってある・・・。足も・・・機械っぽい!!それに僕の足、こんなに細かったっけ??」
トクタケ
「こらこら、コンノくん、落ち着いて。君はとんでもなくラッキーなんです。良いですか、落ち着いて聞いてくださいね。君の元の体は死んでしまった。牛丼まみれになってね。でも、間一髪で私が君を救った。救ったのです!」
コンノ
「あ、、、あり、ありがとうございます?」
トクタケ
「You are welcome. 私が、消える寸前の君の"意識"をフェニクストーンに移し、このBANCまで運びました。必要な処理を施されたのち、君は、今まさに君が動かしているサイボーグボディに"意識"を移されたのです。」
コンノ
「サ・・・サイボーグ?」
トクタケ
「そう!サイボーグです!どうです、素晴らしいでしょう?君は、その超人的なサイボーグボディで、世界を救う心の準備はできていますか!!」
世界を救う心の準備なんて、できていなかったよね、実際の話。でも僕にだって特別な部分が少しはあってもよくない?って期待はしていたのかもしれない。ずっと。
_____
コンノ
「サイボーグ・・・?嘘でしょう・・・SF映画みたい、こんなものが本当に存在するなんて・・・」
僕は、自分のだと思われる手や指を動かしてはみたものの、信じられない気持ちでいっぱいだった。
でも、親指から小指まで、mm単位で正確にかつ滑らかに動くのがわかる。
すごい。これはすごい。
目の前にピアノさえあれば、ショパンでもベートーベンでも難なく弾けると思った。譜面は読めないけど。
トクタケ
「そんなエンタメ用の玩具と一緒にしてはなりませんよ、コンノ君。君が纏うそれは、35式C型。C型汎用サイボーグの中でもっとも完成度が高いとされています。手先の器用さはもちろん、耐久性や柔軟性、パワーもそこそこあります。カルシノーム社の開発した関節のおかげで、32式と比べてかなりパフォーマンスが上がりましたからね。」
コンノ
「35・・・?C型・・・?はは、なんだかマジですね。」
僕の両腕の肘近くに、赤地に白抜きで「Kalsi-norme」と企業ロゴと思われるステッカーが貼ってあった。他にも見たことのないロゴがいくつか貼られている。
グーパーと手を握る感触を確かめたり、太もも部分を触ったりしながらトクタケなる人物を初めてきちんと見た。彼、と言って良さそうだ、彼はブロンドの長髪で顔立ちの整ったいかにも王子様のようなルックスだった。日本語は流暢だしトクタケという名前ではあるが、日本人には見えない。ヨーロッパ、それも北の方の出身かと思われた。服装はグレーのスーツに黒いコート。悪の組織のメンバーにしてはのほほんとしすぎているし、サイボーグの説明をしている彼は少年のように楽しそうだ。
コンノ
「トクタケさん・・・、聞いてもいいですか?」
トクタケ
「もちろんです、コンノ君。疑問を疑問のまま放っておくのは、だれの精神にとってよろしくありません。」
コンノ
「僕は・・・死んだ、んですよね?でも、あなたが僕の意識??を取り出し、ここまで運び、サイボーグの中に移しかえた。」
トクタケ
「はい。正しいです。」
コンノ
「それで・・・僕は・・・僕は、僕自身に自分の存在をどう説明すれば良いのですか?生きているのですか?それとも死んでいるのですか?」
トクタケ
「うん、君は良いですね。結局、皆が問題とするのはそれです。生きているのか、それとも死んでいるのか。君はどう思います?どう感じます?」
コンノ
「よく、わかりません・・・。意識はあります。体も動くし?ですけど。」
トクタケ
「君の疑問にお答えしましょう。君は、生きています。君がもともと動かしていた身体はもう機能を停止してしまった。牛丼の匂いとともに火葬されたでしょう。しかし、それがなんだと言うのです?現に今、君はちゃんと意識があり、現実に干渉できるボディもある。これを生きていると言わず、なんと言えば?」
コンノ
「・・・」
トクタケ
「記憶はどうです?記憶はありますか?」
僕は、過去のことを一つ一つ、思い出してみた。
ハスミンに教えてもらったタバコの吸い方、文化祭でやると決まったバルーンアート、それから優子のこと。違和感のかけらもなく、しっかりと自分の物として記憶していた。
コンノ
「記憶はあります。ちゃんと・・・。でも、、、!」
トクタケ
「現在の状況をすぐに信じられない、と言う気持ちはわかります。私は、今の君と同じような状況の人と話すのは初めてではありません。私は仲介者ですからね。ふふ。さてと、ひとつ、面白いデモンストレーションを体感いただきましょう。」
トクタケは、カバンからモデルガンを取り出した。モデルガンといっても昔ながらの玩具屋さんにしか売っていなさそうなちゃっちいプラスチックの鉄砲だ。
トクタケ
「良いでしょう!これ。ずいぶん探したんですよ。最近こういったものは売っていないし作ってもいませんからね。もはや骨董品です。さて、今から君に向けて何発か撃ちます。」
コンノ
「え、やめてください!大して痛くはないでしょうけど、目にでも入ったら・・・」
トクタケ
「義眼球にこの程度のものが当たっても問題ではありません。それよりよく聞いてください。売った弾のうち、一つだけ青色のキラキラBB弾があります。それをキャッチしてください。良いですね?青色のキラキラです。」
コンノ
「そんなのム・・・!」
トクタケ
「はい、行きます。それ!」
パンパンパンパンパン
_____
なっ・・・・!
ちゃっちい玩具の鉄砲の銃口から、一粒づつBB弾が出てくるのが見える。恐ろしくはっきりと。意識を集中すればするほど、弾はゆっくりとこちらに向かって空気を切っていた。発射された5つのうち、4番目が青色のキラキラだった。
これを取るんだったな。どうやって?あ、手か。
右手の親指と人差し指で取ろう。よし、むむむ。もうちょっと。うん、よし!取った!
あれ、他の弾は?これ、このままだと、僕の顔に当たる?やだな、全部掴んじゃえ、左手が空いているし。よし・・・
スパパパパパパン
トクタケ
「どうです?」
コンノ
「はっ!え、僕今何を・・・!?」
トクタケ
「ご自分の手をご覧なさい。右手でつまんでいるでしょう。青色のキラキラのBB弾を。ちなみにそれ、私の宝物なので返してください。」
僕は、青色のキラキラBB弾と左手に持ったその他のBB弾をトクタケに手渡した。
トクタケ
「なるほど、初日でここまで順応できるとは。調査部が君を推したのも頷けますね。」
コンノ
「調査部?」
トクタケ
「失礼、こちらの話です。でも、わかっていただけましたか?君は生きている。しかも超人的なサイボーグの体でです!素晴らしいでしょう。君は本当にラッキーですね。3年前だったら2131年式のK型に入れられていたかもしれない。あれは、ひどかったのですよ・・・。思い出したくもない。」
コンノ
「えっ??2131年式?」
「あぁ、そういえばまだ言っていませんでした。今年は、仁文11年です。西暦で言うと2136年ですよ?」
「!??!?」
どうやらサイボーグや死ぬだけじゃ飽き足らず、タイムスリップまでしてしまったようだ。僕がこんなに欲深い人間だとは思わなかったよ。
・・・・・
【第二部】ディストピアをディストピアと呼ぶこの世界は、ディストピアではないのかな。 コンノ・ユカル @konnoyukaru
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