5-4 放課後omen
年が明け、新学期が始まった。冬休みはどの長期休暇よりも短い気がするのは、日数だけのせいではないだろう。
年明け早々に発表されると思っていた生徒会メンバーは、まだ明かされなかった。
特に急ぎの仕事もないからか、もしくは紫希がいつものようにサボっているのか。理由はわからないけれど、何も提示されなかった。
学校が始まれば、顔を合わせる機会もあるだろうと思っていた莉李の予想という名の願望は、叶うことなく数日が過ぎた。生徒会室に行かないと、会うことはほとんどなかった。隣とはいえ校舎も違うので、廊下ですれ違うこともない。そもそも、教室の階が違うだけで会う機会は減るので、校舎が違えばなおさらだった。
先輩たちと繋がっていたものがなくなり、莉李は寂しい気持ちになった。遠くない未来に、もう彼らと関わることもなくなるのかと思うと————と、そこまで考えて首を振る。会う機会が減る度に同じことを考えていることに、莉李は気づいていない。
ふと、「いつでも相談に乗るから」と言ってくれた九条の言葉を思い出し、その『いつでも』というのは、いつまで有効なのだろうかと図々しいことを考えていた。
もう一つ変わったことといえば、放課後、自由になった時間を智也たちと帰るようになったこと。
メンバーはお馴染みの智也、美桜、久弥だ。秋葉と関目がいないのは、二人は部活に入っているため、帰宅時間が異なるからだった。
「何か食べていかないか?」
学校を出たところで、久弥が口を開いた。
このメンバーはみんな電車通学で、中でも久弥が一番距離がある。帰る前に少し腹ごしらえしたいのかもしれない。それでなくても、食べ盛りな時期なので、お昼ご飯と夜ご飯の間、何も食べずにいるなんて酷だとも言えよう。
「いいね。何食べたい?」
莉李が訊ねると、「……プがいい」と久弥が呟く。食べたいものがあるらしいが、聞き取ることができず、聞き返す。
「クレープが食べたい」
意外な答えに、莉李は目を見開く。
それも何だか失礼な話だけれど、驚きのあまり、自制する前に思ったことが口から出ていた。
「久弥くんって、甘いもの食べるんだね」
「どちらかといえば甘党」
「そうなんだ」
「いけないか?」
「いけなくないです」焦ったように訂正すると、「クレープに決まりだね! 二人ともそれでいいかな?」と、智也と美桜にも伺いを立てる。二人は了承の意味で頷いた。
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お店も行きたいところがあったらしく、すんなりと目的地にたどり着いた。が、そこからの方が時間がかかった。メニューが多く、どれにしようかとそれぞれが悩み出したからだ。
言い出しっぺの久弥も、食べたいものは決まっていたらしいのだけれど、メニューを前に、目移りしてしまっていた。トッピングの種類も豊富なので、悩むのも無理はない。
結局、久弥は当初決めていた、ストロベリー・チョコを注文していた。追加で、カスタードクリームをトッピングするようだ。甘党だというのは本当のようだけれど、そこまでとは。やはり、イメージできなかった。
莉李、智也、美桜はそれぞれ、キャラメル、ブルーベリー、ラムレーズン・レアチーズを注文した。ちなみに、全員のクレープには生クリームがもれなくついてくる。久弥だけ、生クリームとカスタードのダブルというわけだ。
「そういえば、進路希望調査の紙、配られたけど、みんなはもう決めてるの?」
注文したものを受け取り、席についたところで莉李が三人に訊ねる。
店内にイートインスペースがあり、丸テーブルを時計回りに智也、久弥、美桜、莉李の順で座っていた。
莉李の目の前に座っている久弥が、イチゴを頬張ったところで頷く。他の二人も、それとなく頷いていた。
「俺は進学するよ。工学部」初めに口を開いたのは久弥だ。「寺とかを修復する人になりたくて」
「京都に行ってた時も、真剣に見てたもんね」
莉李はなるほど、と納得する。
「美大も候補にあるから、どっちがいいか悩んでるけどな」
そのための予備校にも通っているとのことで、たまに帰宅が別になる理由を初めて知った。
久弥の話が終わり、今度は隣に座っている美桜が口を開く。
「あたしは、服飾系の専門学校に行きたいんだけど、両親は大学に行ってほしいらしくて……ちょっと悩んでる」
「大学でもそういう勉強ってできんの?」と智也が訊ねる。
「できるところもあるよ。ただ、専門で行きたいところがあるから、頑張って説得するかなぁ」
美桜がそのまま智也の方に目線を移した。智也の番だ、と目で訴える。
「俺は農学部かな。獣医の資格が取れるとこ」
「あんまりないよな。県外とかか?」
「まぁ、それも一応、選択肢には入れてるけど。なるべく実家から通えるところがいいんだよな。母さんのことも心配だし」
以前、母親と二人暮らしなのだと話していたことを思い出す。自分の進路だけでなく、親のことも考えていることに頭が上がらない。
「みんな、もう具体的に決まってるんだね。すごいなぁ」
「莉李は?」
「私も進学はするけど。ちょっと悩んでる」
「まだ時間はあるし、大学に行ってから決めてもいいんだし」
早くもクレープを食べ終わっている久弥が、そんなことを口にした。
智也も美桜も久弥の言葉に頷いている。そんなみんなの優しさが、少し眩しいような気がした。
駅まで向かうと、そこで三人とは別れた。莉李だけ方向が違っている。送ろうかと言ってくれた智也の申し出を丁重に断り、莉李は一人帰路についた。
改札を抜け、大通りの商店街に足を踏み入れようとしたところで声がかけられる。
「すみません、ちょっといいですか」
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