4-17 初対面
修学旅行から戻って2週間が経った頃。修学旅行のレポートも提出し、実力テストも終えた莉李たちは解放感に溢れていた。
「もう気分は冬休みぃ〜」
浮かれ気分の関目が、人目を憚らずに歌い出す。関目が呑気に歌い出せるのも、まだ一つもテストが返却されていないからかもしれない。タイミングが悪いとするならば、帰りの
「関目、実力テストが終わってすぐ浮かれるのはいいが、気抜くなよ。年明けたらすぐに模試もあるからな」
腰を折るような言葉が関目に突き刺さる。いつも自分が一番気を抜いているというのに、こういう時にだけ正論を振りかざしてくるのは言葉の暴力だ、と関目が心の中で悪態をつく。
そんな光景も随分と見慣れてきた今となっては、クラスの誰も止めるものなどおらず、ただ傍観を貫いていた。担任ですら、威嚇するように睨みつける関目に対してそれ以上の苦言を呈することもしない。
「さて、今日は特に伝達事項もないし、テストの返却も来週以降だ。というわけで、HRはこれで終了とする。気をつけて帰れよ」
簡単にHRを終えると、誰よりも先に担任が教室を出た。先程やってきたばかりだというのに、5分の滞在時間もなく帰っていく担任を見つめながらも、誰一人戸惑う素振りを見せない。これもまたよくある光景で、各々が帰る準備を始めていた。
校内だけでなく、街を歩いている人たちもまた浮き足立っているように見えた。色とりどりに輝くイルミネーションが街一面を彩り、その美しさに、誰もが足を止めるほどに魅了されていた。
そんな街並みに不釣り合いとも言えるように、ため息まじりに歩く一人の人物がいた。
実力テスト最終日ということで、いつもより早い時間帯に帰宅しているということもあり、人通りも多くはない。人を避ける必要のない道のりを、智也がゆっくりとした速度で歩いていた。
結局、秋葉から大まかな話は聞いていた。気を利かせたのか、学習したのか、秋葉は事の次第を説明するだけに留まった。「ついて行くなら、同行するよ」という呟きは聞かなかったことにした。
出かけるということを聞いた時は、会う機会が少なくなるからと、あいつが計画したことかと思われたのだけれど、どうもそうではないらしい。
正直なところ、どちらが誘ったにせよ、関わる機会はなるべく減らしてほしいと思う気持ちが大きかった。見たいものがあると言っていたし、期限はそれまでだ。見たいものが何かわからない以上、それを見る機会は少ないに越したことはない。
けれど、すでに約束を取り付けてしまっている以上、今更取り消すのは難しいことも理解している。こちらが画策したことがバレたら、何をしでかすかわからない。何より、すぐにバレそうな気もする。となると、やはり早く解決策を見つけるしかない。これは、あの時から変わらない現実だ。
じゃあ、どうすればいい?
手がかりはあいつが言っていた言葉だけ。本当かどうかはわからないけれど、あいつの言い分からすると、あいつ自身が直接奪うことはできないということ。あの時はバカにされ、話が逸れたけれど、誰かの手が必要になるということだろうか。それは誰でもいいのか? 駅で突き落とそうとしていた人物は、あいつの仲間だろうか。それもわからない。わからないけれど、随意的にそれを可能としている確率が高い。
その手から守るという方法もないわけではない。けれど、それも限度がある。ずっとついて回るわけにもいかないし、守れない場合だってあるだろう。
じゃあ、俺にできることは何だ? あいつの興味がなくなれば……せめて、もっと情報があればいいのに————
「あの、」
近くで聞こえた声に、智也が我に返る。簡単に辺りを見渡すと、周りには声が届く距離に人はおらず、自分にかけられたものだと思った。
声は智也の背後から聞こえた。振り返ると、中学生くらいの男の子が智也を見上げていた。右目は髪の毛で隠れていて見えず、怪我をしているのか、頭に巻かれている包帯がチラチラと視界に入る。
コートの下から覗くズボンは、明らかに制服のものではなかった。学校にいるであろう時間帯だということが気になりつつも、智也は少年の方に体を向け、続く言葉を待った。
少年は、見上げるように片方だけの目を智也に真っ直ぐ向けると、小さく口を開いた。
「僕なら、あなたのお手伝いができるかもしれません」
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