2. 設定を決めよう(2)



場所はあなたの部屋。

「異世界小説メイカー」のメイがあなたを見つめている。メイは革のビキニを着ている。これはどうやら鎧のようだが、体を隠してないのであまり役には立たなそうだ。

その上にあなたのワイシャツを羽織ることで、かえって淫靡な感じになりかけているが、全体的に清楚な雰囲気なので、なんとかバランスを保っているといえる。


あなたとメイは「異世界に召喚されたあなた」の能力について話している。


あなたは尋ねる。「ふーん。でもこっちの人間だってべつに勇者とかじゃないだろ。武器もなければ魔法だって使えない。なんでそれなのに呼ぶわけ?」

召喚されても今の自分じゃあ対応できそうにない。もう少し理解しないとな。


メイはいたずらっぽく答える。「それが、異世界補正、主人公補正とか言われるパートよ。これをどうするかでストーリーの方向性が決まってくるの。」


異世界補正?あまり聞いたことのない単語だが。

「異世界から召喚された異世界人には、異能が備わってることが多いのよ。あ、ここでいう異世界人ってのは地球人のことなんだけど、彼らからすると地球が異世界だからね。」なんだかわかりにくいが、意味は通るな。


「どんな異能なんだい?」

「それが設定よ。作家としてどうするか、あなたが考えること。まあ、よくあるのは、魔法が使える、パワーが強くなる、なんてパターンかな。魔法や剣の技の上達が早い、ってのもあるね。こういうのをまとめて、いわゆるチート能力ってやつになる。ソシャゲでいえば課金厨…あ、それはそれとして。」なんだか気になる単語が出てきたがとりあえず無視することにするあなた。


いずれにしても、主人公なんだから、まあ、それくらいあってもいいだろう。

そう思うあなたにメイが冷酷に告げる。

「ありのままのきみが転移してもいいよ。地球で役立たずの引きニートだったのが、異世界にいっても無能であたまも回らず知識もない、体力はガキ以下で魔法も使えない、ま、言ってみれば何もできない単なるごくつぶし、なんてのもありうるけど、それだと三日で確実に死ぬわね。」


もう勘弁してくれ。俺のライフはゼロだ。


「で、主人公のあなたにはチートが与えられる。というかあなたが決めればいい。」「だったら、さわやかなイケメン、剣術も魔法もすごい能力があって、悪いやつを一刀両断、女の子にはモテモテで、金もがっぽがっぽ。いい暮らしをして毎日楽しくすごそう。」


メイは冷めた目で見る。「ま、最初はそういうわよね。それはべつにいいよ。ところで、もしあなた以外が主人公だったとして、そんな話読みたい?人生イージーモードのイケメンなんて、今のあなたから見たら爆発しろ!と思うだけでしょ。」

「…」


メイは続ける。

「主人公に対して、読者がある程度感情移入して、わくわくできる物語を書くことが大事。もちろん俺TUEEEでもいいんだけど、できれば依頼、たとえば魔王の討伐ね、それを果たすため、修行して強くなるって感じかな。」


「ちなみに、召喚や次元の裂け目以外に転移することってあるのかな?」あなたは尋ねる。

「いろいろだけど、あと多いのは神様の間違いね。あとは単なる事故。」

なんだそれは。

「要するに、神様がなにかミスしたり、手に負えない事故がおこって、普通の人間がなぜか転移しちゃうってこと。」

「なんかすごく迷惑なんだけど。」

「まあ、転移なんてそんなものよ。」

メイは事もなげに言う。

「転移した理由なんかを誰かが説明するのが冒頭あるわけ。それがないと設定が読者にわからないからね。

そのときに説明するのが王様とかお姫様か、あるいは神様かの違いでしかないよ。」


「なんか大きな違いのような気はするけど。神様ってどんな力があるの?」


「それを決めるのはあなたの役割よ。まあ、普通は世界の道理をつかさどるとかバランスをとるとかね。そのときに何か事故があったり神様の予想できないようなことがあって、それにともなってあなたが飛ばされちゃう。」


何か、すごいスケールの話だな。あなたは思う。

「で、神様から説明を受けるの。こうこういった理由であなたは異世界に転移した。でも条件が整えばそのうち返してあげるからそれまで頑張ってね、とか。あ、転生のほうが神さまが出てくることが多いけどね。」

なんとなくはわかる。まあ今回は召喚にしておこうかな。

「あとは、さっき言った通り、単なる事故。」

何じゃそりゃ?


「事故で異世界に飛ぶの。トラックにはねられると思った瞬間に異世界に転移した、とか、バスでがけから落ちて異世界に転移したとか。あ、これはクラス転移の場合ね。こういう場合には、特に説明はないの。単なる不幸な事故で転移しただけ。」


「うーん。まあ、説明難しければそういう手もあるのか。」

「まあ、不幸な事故、ってやつよね。あるいは、なってしまったものは仕方がない、という開き直り設定もあるよ」


そんないい加減な。ま、小説だからいいのかな。


「あと、これは転生でもよくあるけど、ゲーム世界に入り込んで出られなくなっちゃうとかね。」

「ゲーム世界?」

「そうそう。剣と魔法の世界って一番わかりやすいのはゲーム、RPGとかMMORPGとかVRMMOとかだから。」

「なんかよくわからないけど、FFみたいなもの?」

とりあえず聞いたことのある名前を出してみる。


「ま、そう思っておけばいいわ。ドラクエでもいいし、グラブルでもいいけど。ソードアートオンラインなんてまんまそれよね。アクセルワールドなんかも。まあ、アクセルワールドは帰れるけど。」


「なんとなくわかった。とにかく異世界に行ったんだね。で、そのあとどうするの?」




こうして、異世界小説の完成に、一歩近づく。




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読んでいただいて、ありがとうございます。



「今日から幼馴染」もよろしくお願いします。


今日から幼馴染! 初対面のお嬢様がなぜかぼっちの俺の幼馴染だと言ってきた件

https://kakuyomu.jp/works/16816410413933088813





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