封じられた限界酔拳
「ひかげちゃん、酒を飲むならお店で飲もうよ。恥ずかしい。」
「休日に外で酒を飲む楽しさがわからないかなぁ、タマちゃんには。」
神崎ひかげはスキットルを煽りながら答えた。藤原埼玉は恥ずかしそうに周囲を見渡すと、物珍しそうにこちらを見ている観衆が集まっていた。
「ひかげちゃん。私が我慢できないからあのお店に入ろう?奢るから。」
「嘘?やったぁ!ただ酒だ。って、痛ッ。なんか背中に刺さった。」
神崎ひかげは後ろを振り向き背中を見ようとするが、さすがに見えない。藤原が神崎の背中を見ると、服に丸い穴が空いており、そこから血が流れ出していた。
「これって、もしかしてひかげちゃん、撃たれた?」
どう見ても銃創にしか見えないそれは、実際にライフル銃で撃たれた跡であった。
「タマちゃん、私の後ろに隠れて!!」
神崎ひかげは藤原を隠すように前に出た。酔いどれ時の神崎ひかげは半径百メートルの範囲の気を感じとれる。狙撃犯は神崎ひかげを狙撃した後でこちらに殺気を向けてきたのだ。
厄介な相手だ。
と、神崎ひかげは思った。単独ならばどうとでもなる。しかし、傍らには藤原埼玉がいる。あえて誘いに乗らなければ、次は藤原埼玉が狙撃されることだろう。それだけは避けなければならなかった。
「タマちゃん、ごめん。用事ができた。」
神崎ひかげはそう言って走り出した。狙撃犯が待ち構えるビルへと向かって。
******
エンプティはビルの一階で待ち構えていた。最悪、ビルごと破壊されかねない。そんな想定のもと、いつでも逃げ出せるようにするためだ。
わずかな興奮と溢れんばかりの恐怖を彼は感じていた。神崎ひかげ、実際に見た彼女はまさに化け物であった。沖縄の八重島でギルタブリル・オブトサソリを屠った姿は忘れられない。40フィートに届くほどの超巨大サソリを蹂躙した女とこれから対決するのだ。
これだから、この世界は素晴らしい。エンプティの顔には笑みが浮かんでいた。
神崎ひかげは狙撃犯がいるビルへとたどり着いていた。どうも調子が悪い。彼女はそんな不安をかき消す為にスキットルを煽る。
体に流れてくるアルコールが彼女を覚醒させる。いつもならば、そうなっていた。しかし、手持ちの酒を全て飲んでも酔いが回らない。視界が霞み思考が鈍る。
エンプティによって撃ち込まれたナノマシンは絶大な効果をあげていた。血中のアルコールは完全に分解され、今の彼女は素面と言って差し支えない状態になっていた。
神崎ひかげは酒乱である。隙あらばいつでも酒を飲む彼女にとって、酩酊状態こそが通常であった。そのため、アルコールが切れた状態に体が拒絶反応を示したのだ。俗に言う、素面酔い。神崎ひかげは最悪のコンディションでエンプティと挑むことになった。
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