第2章

第1話「北のウォール街のレストラン①」

 旧北海道銀行本店。

 銀行特有の重厚さを持って設計された建物は、当時の北海道銀行が吸収合併されてからは、国の北海海運局として使われたあと、北海道を網羅するバス会社の本社として使われていたが、今はお洒落なレストラン―小樽バイン―として、まちの人々に親しまれている。

 

 俺とスハラは、オルガとサワさん、ミズハ、スイ・テンを連れて、ランチタイムの小樽バインを訪れていた。

 目の前には、すでに前菜として頼んだいくつかの料理が並ぶ。


「ミズハ、我、チーズ食べたい!」


 チーズ盛り合わせを見て騒ぐテンに、ミズハはスイと自分の分も含めて取り分けていく。

おいしそうな料理を前に、なごやかな雰囲気が流れる。

 今日は、最近起きていたいろいろな事件が終わったことの慰労会みたいなものだ。


 発案はスハラと俺で、支払いももちろんスハラと俺。

 食べ物に関してブラックホールなスイとテンは、支払いの心配がないことから、ここぞとばかりにいろいろなものを頼んでいく。

 俺は、いろんな意味で大丈夫かと思って、隣に座るスハラをちらっと見るが、スハラは何事もないかのように笑っている。じゃあ、まあ、いいか。


「スハラちゃん、小エビのトマトソースとペスカトーレ、あと、シーフードピザとエゾシカミートピザ、ハムとハーブのピザ持ってきたよ~」


 さっき前菜を運んでくれていたウエイターとは違う男の人が、軽い雰囲気で料理を運んでくる。


「あれ、ユキさん、今日いたんですね」


 スハラから、ユキさんと呼ばれたその人は、いたよ~と気安い感じで応えた。


「スハラ、知り合いなの?」

「うん、尊は初めて会うんだね。こちらはユキさん。旧北海道銀行のヒト」


 はじめましてだね~と言うユキさんは、笑顔を崩さない。


「尊くん、君のことは聞いてるよ。スハラちゃんたちと仲がいいんだってね~」


 ユキさんはすぐ横に座るオルガの肩に手を置く。その様子を見て、サワさんがものすごい目でユキさんを睨みつけるけど、ユキさんはそれをちらっと見ただけで、笑顔のまま動じる様子がない。

 たくさんの料理に似合わない、一触即発な雰囲気。

 サワさんがとうとう耐えかねて口を開こうとしたとき、隣のテーブルでランチを楽しむマダムたちから、ユキくーんと声がかかった。


「あれ、呼ばれちゃったか。じゃあ、今日は楽しんでいってね~」


 ユキさんは、はいは~いと返事をすると、呼ばれたほうへあっさりと行ってしまった。


 その後もたくさんの料理が並んでいくが、それらはブラックホールと化したスイとテンに吸い込まれるように消えていく。


「スハラ、追加で頼んでもいい?」


 心なしか来た時よりも丸くなったようなテンのお願いに、スハラがいいよと頷くと、テンはやったーと声を上げて、通りかかったユキさんを呼んだ。


「ユキ、あのね、これとこれと、これ。あとこっちも」


 どれだけ食べるんだろうか。ブラックホール・テンは、加減することなく頼んでいく。


「おい、テン。そんなに食べて大丈夫か?」


 俺はたまらず声をかけるが、テンは「スイも食べるし大丈夫」と言って胸をはった。

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