第6話「囚われの君へ⑦」

 光が消えると、黒い雲は消えていて、泥人形を溶かしたのと同じ温かい雨が、辺りに降り注ぐ。


 セイカは、白い光の残滓に包まれて、横たわっていた。


「セイカ!」


 リクが駆け寄って抱き起す。スハラ達も少し遅れて、リクとセイカを囲むように集まる。


「セイカ、ねぇ大丈夫?セイカ!」


 リクの必死の呼びかけに、うっすらと目を開けたセイカは、声にならない声でつぶやいた。


「……リク…大丈夫?…ごめんなさい…私は大丈夫、だから…。それだけ、伝えておきたくて…」


 力なく消えていく声。

セイカは一瞬微笑むと、目を閉じて、動かなくなった。


「セイカ、待って!ねえ、起きてよ!セイカ!」


 辺りには、リクの悲鳴のような叫びが響いていた。



※ ※



 オルガたちが帰った後、独り残された私のもとに、見たことのない来訪者があった。

 窓から入ってきたそれは、夕闇を取り込んだかのように黒く、細長く。その鎌首を持ち上げ、私に話かける。


『寂シイ?』


 寂しくないわ。


『怖イ?』


 いいえ、だって、私は一人じゃないもの。


『デモ、誰モ、イナイヨ?』


 そんなことない、と言いかけて、ふと不安になる。いつの間にか夜の闇が濃くなって、この世界に独りで取り残されたような、そんな感覚が湧いてくる。


『ダイジョウブ?』


 私の不安を読むように話しかけてくるそれは、私の顔を覗き込む。黄色い目が、怪しく光る。


『ヒトリハ、寂シイ』


 そんなこと、ないと思う。


『ヒトリハ、怖イ』


 いいえ、そんなことは。


『誰モ、イナイ』


 そんな。


『消エテシマウ』


 暗転する世界。私は思わず目を閉じてしまう。

 独りは嫌。誰かをのこしていくのも、のこされるのも嫌。消えたくない。


 誰か、誰か誰か誰か。


 助けて。


 一瞬にして不安で染まる心。

目を開けると、怪しく光る黄色い目が、すぐ目の前にあった。


『ダイジョウブ、ボクガ イルヨ』


 誰かに似たそれの声に、私は身を預ける。


「消えたくない…」


 リク、助けて。


 私は、不気味な光に呑まれていった。

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