over extended.

final & prologue.

 いつもの街並み。夕暮れ。

 隣に彼がいない日常。

 きっと、どこかでまた、死線を越えようとしているはず。


「おう。新婚さんいらっしゃい」


「結婚してないです」


 店主。レジの向こうから、気さくに話しかけてくれるようになった。


「でも、そろそろだろ。時期的に」


「えっちは激しいんですけどね。この前なんか、膝ぶつけちゃったし」


 漫画をひとつ本棚から取って。読みはじめる。


「いいんです。結婚しなくても。あのひとが死ぬまで、わたしが隣にいる。それだけで。わたしはしあわせです」


「そうか。なんか、普通の女の子みたいになったな」


「そうですか。うれしい」


「人ってのは、簡単には変われない。たぶん件副も、死にたい気分からは抜け出せないだろう。下手すると、一生そのままかもしれん」


「わかってます。それはそれで、受け入れるつもりです」


「よし。よく言った。純情なねえちゃんに、店主から耳よりな情報をお届けしてやろう」


「えっやったっ」


「今日ねえちゃんの恋人は、どこにいると思う?」


「わかりません。きっとどこかで、仕事を」


「仕事ねえ。そうか。あいつは仕事と言ったか」


「え?」


「今日、あいつは仕事をしてない。街は今日も平和で、あいつが受けるような仕事はない」


「うそ」


「じゃあ、あいつはどこにいるか。知りたいか?」


「しりたい」


「それがなんと、郊外のモールにいたとさ」


「モール?」


「指輪を、店員と悩みながら選んでいたそうだ。買い物に出かけたうちの嫁の情報だから、情報の確度も高い」


「うそ」


「俺の予想だがな、家に帰って告白する前に気持ちを落ち着かせようと、ここに漫画を読みに来るはずだ」


「うそ。うそうそうそ。やばい」


「落ち着けよ。向こうも緊張してんだから。優先権を奪うチャンスだ。派手に告白決めてやれ」


「うわあ緊張する。心臓とびでる。やばい。あどばいす。あどばいすください」


「アドバイスか。そうだな。きっとあいつは、年齢のことを話題にしてまた逃げようとする。年の差が30ぐらい離れてるってな」


「う。ありそう」


「先手を取って、相手の退路を絶ってやれ。死地に追い込め」


「うん。わかりました。ころしてみせる。ころしきってみせる」


「よし。その意気だ。ほら。来たぞ。戦闘開始だ」


 結ばれなきゃ、だめ。

 ハッピーエンドにしなきゃ。




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Hold 春嵐 @aiot3110

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