Delta

 目を醒ませば君が居る。君と目が合って挨拶を交わす。


「おはようございます、リアム」


「おはよう、アリス」


 君を抱きかかえてから身体を起こし、寝室から出る。静かな朝の中、君を腕から降ろし、おもむろにテレビジョンの電源を点けてニュースを観る。

 どこで誰が死んだとか、誰が誰と結婚しただとか、最新の技術として機械人形が特集されていたりした。

技術の発展は予想が出来ないだとか、機械の在り方がどうとか。話題が変わっただけで歴史の教科書にも載ってるような話をしている。


 テレビジョンを眺めるテル・リアム・クロフォード。

そんなテルを眺めるアリス・ラピスラズリ。


――― 巡る時盤の中、追い掛け合う時針と分針


 一つ進めば君を見て

一つ進めば君を見て


ムーヴメントの音が空鳴って。


僕らは時計に尋ねた。


それでも鼓動は止まなかった―――


 テレビジョンの電源は切った。起きた静寂の中なら聞こえるはずの、小さな君の音をどこかちからのない呼吸がかき消す。


「僕の中で止めどなく騒音が鳴っているよ」


「でも、私にその音は届いていない。ただ貴方を傷付けるだけの音があるなんて、そんなのは寂しいですね」


そう言って床に立って僕を見上げている君は僕に両手を伸ばした。抱っこをせがむ幼児の仕草に似ていた。

 君を抱き上げると、君は伸ばした手で僕の両頬を触り顔を近付けた。

 それから僕の胸に倒れ込んで身を預ける。眠るように静かに、僕の音に耳を澄まして君は君の音を立てている。


 ああ、どうしてもこの音が止まないことは僕らが活きている証だ。

僕が君の音を愛おしく思うのも、君が僕の音を大切にするのも、きっとそれは言うまでもないことだ。


「アリス、今日は何をしたい」


「ずっとこのまま・・・」


 僕ら目を瞑って向き合って、これじゃ行き先が分からないねって微笑みながら止まない音を確かめ合っていた。


どちらかが止まれば聴こえなくなってしまう。欠かすことの出来ない二つの音は僕らが進み続ける為の行進曲マーチ

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人形劇-March- 月光と紅茶 @moonlight_tea

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