前日談 クロノスタシス

――君の名前はアリス・ラピスラズリ。

その手を伸ばしても届かない美しさにふさわしい名前だ。


そして僕の名前はテル・リアム・クロフォード。

栄光とその為の力を願ってつけられた名前。


それは今までも、明後日だって変わらないこと。


君の名前を呼べば、君は僕の名前を呼び返す――



「君に触れていると、本当に暖まる」


「またおかしなことを言って」


「おかしくなんかないさ。君に触れている時ほど心が満たされる瞬間はないんだから」


「それじゃあ私も貴方で暖を取りますね。でも、この後はお仕事でしょう」


「そうだね。こうしている時間が何より素敵なのに、これだけじゃ駄目だなんて神様は残酷だよね」


そう言って僕は身支度をして今日も仕事へと向かう。


部屋では消し忘れたテレビジョンがニュース番組を映し、タイマーでその電源が切れるまで知らないどこかの話を続けていた。




 昨日と同じ道を辿り、行きと同じ道を帰って来る。


「おかえりなさいリアム」

「おやすみなさいリアム」


今日も君は僕を「リアム」と呼んでくれる。

今日も僕は君を「アリス」と呼ぶ。

それはきっと明日も。


――コクコクと秒針は音をたてて進む。君との時間は愛おしくて、ずっとこのままでと願いながら見つめていると、時々その一秒が果てしなく感じた。

だから僕は永遠はあるんだと、そう思っていた――

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