告白 #2 「Anbivalent」

 正方形の机に向かって一人、そして一人。

一人は階段型のアーティスティックな造形の椅子に腰掛ける男性、テル・リアム・クロフォード。

一人はその小さにカラダの為に作られた階段状の椅子に座る機械人形、アリス・ラピスラズリ。

 差し込む光はアリスの髪を黄金色こがねいろに照らしている。そのかたわらにある瑠璃色に満たない透き通った瞳をテルが見つめていると、落ち着かない様子でアリスが言う。


「そんなに見つめられていると照れちゃいます。」


そう言いながらもアリスはテルの目をずっと見つめている。

テルは嬉し恥ずかし微笑み、返す。


「このまたたきすら惜しく感じているよ。」


「もうっ」小さくそう聞こえた気がした。

アリスは目を逸らし、もう一度、今度は覗くようにテルを見つめ


「照れちゃいます。」


そう言って目を逸らした。


「そうやって君は―――」


咄嗟に出た一言。テルはその続きは押し殺す。


「ああ、そうやってずっと、いつも貴方は何も言ってくれない。」


その声色は悲しさを感じさせるもので、テルはそれをかき消すように言う。


「だって、こんなにも眩しい朝なのにこんな話、僕はしたくないんだ」


「リアム。貴方が言ったんです、そう呼んで欲しいと。その訳を私は覚えてますよ。」



―――それは記念日。アリスがテルに出会った日のこと。


「おはようございます、私はアリス・ラピスラズリです」


目覚めの挨拶をするアリスは尋ねる。


「貴方の名前を、そしてなんとお呼びすればいいかを良ければ教えて下さい」


「テル・クロフォード。いや、―――」

テルは少し考えてから言い直し

「―――テル・リアム・クロフォード。リアムって呼んで欲しいかな。君の前では強くありたいから」


そう答えた―――



 愛しそうにアリスが言う。


「リアム、リアム。私は貴方と話したい。」


その言葉はテルの心臓に刺さった。

隠してきた想い、隠しきれなかった気持ち。

その痛みと後悔。


「そうやって君はいつも僕を不安にさせることばかり言う―――」

その一言で吹っ切れたかのように、だけどまた悲しそうに続けた。

「―――シンギュラリティ。それが起きて君が僕を追い越してしまった時、僕たちの関係は壊れてしまうのかな・・・」

アリスが答える間もなくテルは付け足す。

「だけどこんな問には意味が無い。こんな想いを、こんな僕を君には見せたくなかったな。

ああ、僕はこのままに満足していたはずなのに」


独走するテルの言葉。それにアリスが寄り添い、その小さな手を僅かに伸ばしながらテルに告げた。


「私は貴方の隣りを歩いていたい、ただそれだけなんです。だから立ち止まらないで、そして私を置いて行かないで」


それはまるで我儘に振る舞う少女のよう。

テルは大きく身を乗り出し、アリスの手を取った。


―――そこに言葉は無く、互いの想いが互いを傷つけ、互いを癒していく。


ただそれだけの時間。昨日にはなかった出来事が時計の螺子を巻く。


 いつまでも見つめ合う一人と一人。その中で「tick tack」とアリスの胸の音は確かに鳴っていた―――

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