人形劇-March-
月光と紅茶
告白 #1「Hello World」
――時計は繰り返されるリズムを刻み続ける。
「ずっとこのまま」そう思っていてもいつかは螺子を巻き直さなければならない。
だから彼らはそのリズムが狂わないよう、慎重に螺子を巻く。「ずっとこのまま」そう繰り返しながら――
「おはよう世界」
カーテンの隙間から漏れる光に目を差されて目覚めたテルの一日が始まった。
眩しい光から目を背けた先にいるまだ瞳を開けぬ機械人形に囁く。
「おはようアリス」
それからアリスをベッドに残し、着替えることも無く寝室を出た。
冷たい静寂の中なんとなくテレビジョンの電源を入れてみると当然のごとくニュース番組が映り、昨日も見たような話をキャスターがしている。
『もしかしたらアンドロイドがここに立つのもそう遠くない未来なのかも知れませんね』
そう言って何も無かったかのように次の話題について語り出した。
チャンネルを回しても特に変化は無く、呆れて電源を切った。
またしんとした空気に包まれ、ため息を一つ。
「おはようございますリアム」
四十センチメートル程の小さな声がテルをミドルネームで呼んだ。
そこにいたのはアリス。
「うん、おはよう」と答え、アリスの前で屈んでは髪と頬を撫でた。
今日の朝は妙に冷える。
「ずっとこうして君で暖を取りたい。そんな今日だ」
「またおかしなことを言って」
「おかしくなんかないさ。僕はこうしていると暖まるんだから」
「機械人形は熱を持ちません」そう瞳で訴え、アリスは自分の頬を撫でる指に触れた。
「それじゃあ私も貴方で暖を取りますね」
そうしてしばらくの沈黙が続いた。
「熱くなってきました」
恥ずかしそうにアリスは言う。
「そうか、それじゃあ火傷でもしたら大変だね」
そうしてテルは髪を一撫でしてそっと立ち上がった。
「朝食にしよう」
テルはキッチンへ昨晩食の残りを持ってきてそれを食卓に置いてからアリスをテーブルを囲うステップベンチの上段に座らせて、自分はその向かいの真ん中に腰掛けた。
――食事中の会話は二人のテンポで他愛もなく続く。
きっと昨日もしたような話をしては静かに微笑みあった。
食事が終われば目を交わし、手を重ねた。
そうして静かになった部屋の中では「tick.tick.」とアリスの胸の音が聞こえていた――
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