目覚め
遠く遠くどこか、いつか好きだった人形。
大切で、大切すぎて、どうしてだったか起こしてあげられなかった機械人形。
ほんの気まぐれか、置いてきたと思っていたそれが押し入れから出てきたから、彼女を起こしてみることにした。
人形が
「ああ、そう。こんな色だった」
何かで見た彼女の姿。それがとてもかわいくて、何度も何度も親に強請った。
近くじゃ売られていなかったから、遠くの街まで一緒に買いに行ったほど欲しくてたまらなかった人形。
結局は起こすことも無かったけれど、それでもずっと大切に、いったいいくつまで一緒に遊んでいただろうか。親には「これなら普通の人形でもよかったじゃないか」なんて言われたことは何度もあった。その度に私は答えていた「私はこの子が好きなの、この子じゃなきゃダメなの」その言葉に親は呆れて笑みをこぼしていた。それが今じゃ、持って来ていたことすら忘れているなんてね。
懐かしんで感傷に浸っていると彼女の口が動く。
「はじめまして、私はアリスっていいます。アナタの名前はなんていうのですか?」
「ううん、はじめましてじゃないわ。私はアナタのことをよく知っている。だからこれからたくさんのことを教えてあげる」
——私とアナタが出会ったのはずっとずっと前のこと。
昔はよく一緒にお茶会をしていたのよ。
それから、友達の家に遊びに行ったときに連れていって驚かれたりもしたっけな——
アリスは静かに、小さく微笑みながら私の話しを聞いている。
——それから学校にも連れていって、それで…変な子って馬鹿にされたっけ——
ああ、いま思えばアナタから気持ちが離れていったのはそれがきっかけだったかもしれない。そして私はその時の気持ちと、この子を箱に詰めて仕舞い込んでいた。
——それからね、アナタとはあまり遊ばなくなったの。なんていうか人形と遊ぶような歳じゃなくなったっていうか、そういうのが認められる年齢じゃなくなったのよ——
眉を降ろし、不安そうに話しを聞いていたアリスが尋ねた
「それじゃあ、私とはもう遊んでくれないのですか?」
「ううん。そんなことないわ、これから一緒に、ずっと一緒に過ごしましょ」
それから私はアリスに私のことをたくさん教えた。私が家を出た訳とか、今なにをしているかだとか、これからしたいことと、これから一緒にしたいことも語った。
さっきまで忘れていたのに、思い出してみるとこんなにも深く、今も変わりなくアナタのことが好きだ。
「ねえ、私たち愛し合えるハズなのに、こんなにも遠い」
「いいえ、私は傍にいますよ」
「そう。こんなにも近く、長く、傍に居るのに交わらない」
「いいえ。ほら、この通り」
そう言ってアリスは私の突いた腕に身を寄せて、その小さな手で私の手を弱々しくも強く掴み、私と目を合わせてめいっぱいに微笑んだ。
その時、私の中の何かが激しく動く音がした
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