始まりのdoll

 公園に人形が居る。街の一角、大規模な森林公園で捨てられたのだろうか、長年放置され、それでも依然動き続けているドールロイド、ドロシー・ルビー。死を知らぬ人形と揶揄されることもある彼女は自身の持ち主の不在を上手く理解しておらず、ただひたすらに何をでもなく待ち続けている。

私はそんな彼女のひたむきな姿を愛しいと思ってしまった。未だ誰かのモノである彼女。




 何の変哲もないありふれた昼下がり、私は今日も公園に来ていた。


「今日はいい天気だね」


そう言ってドロシーの前で膝をつく。


「そう・・・。ええ、そうですね」


いつも通りの素っ気ない返事。


「昨晩は雨が降っていたみたいだね。僕があげた傘は使ってくれたかな?」


「いえ、私は雨に濡れても平気です」


「でも少しは身だしなみに気を遣わないと君のご主人様が驚いてしまうんじゃないかな」


「それもそうですね」


 やっとしたそれらしい返事も、それを聞くのは六回目で、結局私は彼女にとって風景とそう大きく変わらない存在だと感じる。


「また、汚れてしまったね」


 私はカバンからタオルを取り出して、彼女の手をとり汚れを拭う。

次に顔を丁寧に。次いで髪の手入れをする。

本当は服も替えてあげたいが、着替えさせる訳にも、着替えてくれる訳もなく。ひとしきり彼女を拭き終えた私は大人しく彼女の隣に座って彼女が見ている景色を隣で見た。

 淡い青の空と地を這う草原。公園の端から先に広がる鉄の街。寂しさも憧れもない、ただ住処すみかでしかない景色。


これを見て彼女は何を感じているのだろうか。


「ドロシー、君は何を見る?」


返事は無かった。




 本当はきっと彼女を私の物にすることは出来る。そもそも投棄されているような状態だ、彼女を引き取るということなら記憶の初期化も許されるだろう。

それでも私が初めて愛した人形の少女はこうして何のアテもなく、いや、何をでもなく待ち続けるようなそんな健気な子だ。だから私も待つことにした。

いつか来る別れを密かに来ないでくれと思いながらも謙虚に。

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