嘘つきな魔法使い


 浴衣を着た少女が少年の耳に手を添え、何か囁いている。


 それを聞いた少年は、もともと大きな丸い目をさらに見開いて驚いていた。


 顔を真っ赤にして少女に何かを言い返す少年。


 すると少女の顔もみるみるうちに真っ赤になった。


 2人の顔が赤いのは、花火の光の照り返しではないことは明らかである。


 二人は顔を見合わせ、はにかみながらも微笑んでいた。


 ……心から幸せそうに。


 今日、私は一つ嘘をついた。


 本当は魔法使いなどではないし、もちろん恋を叶える魔法なんて使えない。


 夏に咲いた、二つの恋心。


 小さくて大きな幸せ。


 それは私がもたらしたものではなく、彼ら自身が引き寄せ、手に入れたもの。


 ……立ち去ろう。


 嘘つきな私はきっと場違いだ。


 私はゆっくりと踵を返し、花火とは反対の暗闇に向かって歩き出す。


 背後で美しく咲く、少年と少女を結んだ花火の音を聞きながら。


[完]

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恋と花火と嘘の魔法 星夜 かなで @Kanade_kurage

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