恋と花火(2)


 ふとすぐ隣に立つ彼を見る。


 夜空に散りばめられた色鮮やかな光が、彼の顔を照らしていた。


 あと一歩で触れられる距離。


 その一歩は近くて遠い。


 けれど……。


『好きな人への思いが届く魔法よ。魔法の期限は、今日の花火大会の最後の花火が消えるまで』


 数十分前まで話していた少女の姿を思い浮かべる。


 彼女を信じていいのだろうか?


 魔法なんて嘘で、この気持ちを伝えたら今の関係が壊れてしまうのではないか……。


 そう考えると、とても怖かった。


 そうなってしまうくらいなら、変わらないままでも……。


 そこまで考えると首をふってそれをかき消す。


 それじゃダメだ。


 何度も後悔してきたではないか。


 そのたびに「もしかしたら」なんて希望を勝手に抱いて、逃げて……。


 そんな繰り返しが嫌で、魔法に縋った。


 ……伝えよう。


 今日の最後の花火が散る前に。


 この魔法が解けてしまう前に。


「ねえ……」


 声が震える。


 心臓が激しく胸の内側を叩く。


 自分で決めて言い出したのに、花火の音で彼に声が届いていないことを願ってしまう。


「なに?」


 そんな願いは叶わず、彼は私を見た。


 緊張で固まった足を無理やり動かして、一歩だけ彼に近づく。


 ……きっと大丈夫。


 今の私にはあの魔法使いの少女がくれた魔法があるのだから。


 少し背伸びをして彼の耳に手を添え、唇を近づける。


 ひときわ大きな花火が夜空に輝いたその瞬間、ずっと伝えたかった彼への思いを口にした。


「ーー好きーー」

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