恋と花火と嘘の魔法

星夜 かなで

恋と花火(1)

「さあ、早く彼に思いを伝えなさい。この魔法が解けてしまう前に」


 魔法使いだと名乗る少女はそう言って妖しく微笑んだ。


「ありがとう」


 そう言い残し、私は彼のもとへ走る。


 慣れない浴衣の裾を何度も踏んで転びそうになりながら、やっとの思いで彼の待つ土手にたどり着いた。


「……遅い」


 彼は私に気づくと素っ気なく言った。


「ごめん、ちょっと支度するのに手間取っちゃって」


「ふーん」


 彼は興味がなさそうに私を上から下まで眺めると気まずそうに視線を逸らす。


「浴衣、似合ってるじゃん」


 その一言がたまらなく嬉しくて自然と笑みがこぼれた。


「ありがとう」


「べ、べつに……」


 彼はぶっきらぼうにつぶやくと空を見上げた。


「ほら、花火始まるよ」


 彼につられて私も空を見上げる。


 数秒後、ヒューという頼りない音と共に細い光が夜空に上がる。


 その光は一瞬消えたかと思うと、ドーンという身体中に響く轟音と共に大輪の花を夜空に咲かせた。


「……きれい」


 思ったままの感想がこぼれる。


 しばらくそのまま無言で花火に見入っていた。

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