第219話 偽国王の逃亡劇

 私たちは、囚人たちを解放した。

 自由党幹部、前宰相閣下を含めて要人たちは皆無事に解放されたわ。


「よかった。ルーナ、無事だったか!」


「フリオ様もご無事で何よりです」


 私たちはそう言って再会を喜んだ。

 監獄のバルコニーで私は救ってくれた人たちに無事を報告した。


「皆さん、監獄は陥落し、悪逆非道なリムルや自称宰相は逮捕されました!」


 私がアレンから聞いた事実も含めてスピーチをおこなうと、皆は拍手で喜ぶ。

 

「残るは、国王陛下を暗殺し王位を簒奪さんだつしたクルムたちを逮捕するだけです」


『ああ、俺たちの力で国を取り戻すぞ』

『今まで圧政をしてきた貴族社会はもう崩壊寸前だ』


「さあ、王宮にいる人たちと合流し、我々のためだけの政治をおこないましょう。王都を完全に、簒奪者から奪い返すのです!」


 ついに、行進ははじまった。

 監獄から奪った武器と地方兵団の先行部隊が合流し、ゆっくりと私たちは王宮に向かう。


 これで完全にチェックメイト。

 すでに王都防衛師団は壊滅し、王宮の防衛は不可能。


 しかし、追い詰められていたクルムたちが取った行動は、私たちの予想を超えるものだった。


 王宮の正門近くまで行進をおこなった私たちはそこが地獄絵図になっていたことを悟った。


 そこには、丸腰の民衆たちが傷だらけで倒れていた。


『医者を……』

『王宮から兵士たちが急に出てきたと思ったら、いきなり攻撃を……』

『やつらは馬車でどこかに逃げていった』


 うずくまった人たちは苦しそうに言葉を発している。

 手当てができる人は、すぐさま救助活動を始めている。


 私はその状況に絶望しながら


「まさか、自分の国の丸腰の民衆に向けて、攻撃するなんて。それも自分で始めた混乱の責任を取らずに逃げるなんて……これが自称でも国王がやることなの?」


 アレンは、私を慰めるように肩を持って言う。


「それがあいつらのやり方だ。自分たち以外は道具としか考えていない」


「もう、こんな悲劇は終わりにしましょう」


「ああ、それが命令だな、ルーナ宰相閣下?」


 任期的には私は宰相でない。現宰相の侯爵は、この混乱の中で行方不明。もしかすると、クルムと同じ馬車に乗っている可能性だってある。


 同じく国王が死亡し、その暗殺の容疑者である王子が逃亡中。ならば、この際の王位継承権筆頭は、国王の弟である前宰相閣下のはず。


「ルーナ。順番から考えてもキミが宰相だ。国王の臨時代理としてそう任命しよう。さあ、やってくれ」


「わかりました。つつしんでお受けします」


 私は目を閉じて、皆を見つめた。


「イブール王国宰相として命じます。宰相直属部隊"ファントム"はすぐにクルム一派の追跡をおこなってください。相手は国家に対する反逆者たちです。即時、攻撃を許可します」

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