第174話 ルーナ、国政へ

 そして、臨時政府はすべての権力を王国へと戻す手続きに入ったわ。これですべて終わったのね。でも、まだこれからよ。クルム王子とその支配下に置かれつつある保守党を倒すには……


 まだまだ、時間がかかる。


 私が引き継ぎ作業を終えて、用意された王宮の一室のベランダに出る。ここは一見変わらないわね。この部屋は、婚約者時代に何度も泊ったけど、今は当時とは完全に違う立場になってしまったのね。


 あの時は、まだクルム王子を信じていたのよ。愛してもいた。でも、今は……

 超えなくてはいけない憎き政敵になっている。

 運命とは、本当に残酷なものね。


 ドアを叩く音が聞こえた。


「どうぞ」


 私はそう言うと、中に入ってきたのは宰相閣下だった。

 彼は、開放感で満足そうな顔をしている。

 そういうことね。私は、閣下が何を言いたいのかよくわかる。聞きたくはなかったけど……


「すまないな、ルーナ。夜分遅くに来てしまった。婚約者のアレンには許可をもらっているからいいかな?」


「はい、閣下」


「ありがとう。たぶん、わかっているとは思うが、進退の話だよ」


 私は目をつぶって頷く。ついに、来てしまったのね。


「すでに、陛下には話を通している。私は今回の事件の責任を取らねばならない。原状復帰が終わり次第、宰相の地位から離れる」


「考え直してはいただけませんか。クルム殿下を抑え込むことができるのは、宰相閣下しかおりません。ここで閣下が辞めてしまえば、王子の暴走を止めることはできなくなります」


「そうしたいのは山々だがね。残念ながら、今回のような国家の危機を未然に防げなかった責任は重いよ。それに、その責任を取らずに地位に固執すれば、悪しき前例になる。クルムがその前例を活用することになれば、この国は終わる」


「しかし、あえて王子派が情報を隠していたのではありませんか? ならば、宰相様に責任は……」


「そのような証拠を見つけることはできないよ。それに、そうであっても私には責任が発生する。それが王族であり、行政機関の長としての立場だ。部下の暴走を許した責任は重い。ここで退くのが一番だ」


「……わかりました」


「だからこそ、ルーナに会いに来た。キミがクルムを止めてくれ。おそらく、あの男を止めることができるのはキミしかいない。あの怪物が国のトップになれば何が起きるかわからない。ルーナ。キミに頼める道理ではないかもしれない。だが、国を代表してお願いする。この国を頼む。キミこそがトップに立つべき器なのだから」


―――

(作者)

明日は更新お休みです。次回は金曜日を予定しています。

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