第173話 凱旋

 そして、私たちは王都に到着した。先行したアレンとシッド将軍のふたりが私たちを迎えに来てくれたわ。王都の近くで私たちは合流し、用意してもらっていた馬に乗ってゆっくりと王都に入る。


 これはセレモニーでもあるわ。政治は、演出も大事。私たちが馬に乗って優雅に王都に向かえば、それだけ民衆は安心するわ。すでに、クーデター軍は降伏しているわけなんだけど、やっぱりみんなどこか不安に思っているはずだもの。だから、臨時政府の私たちが、王都にそろって凱旋がいせんすることでみんなを安心させるの。


 そして、4人で陛下にお会いして、国権をすべて陛下に返還する。これで内戦は完全に終わるわ。


 すでに、民衆は私たちをひとめ見ようと待ち構えていた。


『あれが、アレン様だな。さすがは英雄だ。クーデター軍のトップ・オリバー公爵を討ったというのは本物なのかな』

『それに、ヴォルフスブルクに潜入してクルム王子を救出したんだろ……どんだけ化け物なんだよ』

『そりゃ、当たり前だろう? だって、カステローネの英雄だぜ? 国王陛下をひとりでお守りして、ひとりで魔導士たちを制圧したんだ。あの若さで実力で近衛騎士団の副団長までのし上がったんだから、本物だよ』


 やっぱり、一番人気は私の婚約者だった。今回の内戦では、直接的に戦争を終わらせる活躍をしたから当たり前よね。


『やっぱりシッド将軍もすげえよな。有能すぎて、中央の貴族ににらまれて地方に左遷されているのにさ。いざ国の危機となったら自分で前線に立って、多数の敵を少数の兵力で包囲殲滅しちゃうんだもんな。マジシャンか何かかよ』

『海賊騒動とクーデター騒動。この2つで国を救った英雄だよな。まさに、イブール王国の守護神だ』

『毎回、不利な局面を覆して勝ちまくるとか名将すぎだろう……』


 民衆の中では常に評価が高ったシッド将軍はさらに株をあげている。


『クルム王子は、相変わらずかっこいいな。今回も優秀な将軍にすべてを任せてたらしいけど、やっぱり王族は器が違うな』

『ああ、あんな人が次期国王陛下なら、我が国も安全だ』


 私は、王子をたたえる人たちの声を複雑な気持ちで聞いている。

 彼は、ずっと仮面をかぶり続けている。そして、何も知らない人たちは、まるで過去の私だ。


『そして、あれが聖女様か』

『海賊騒動に続いて、クーデター騒動まで鎮圧してみせた。あんなにかわいい顔をしていながら、すさまじい胆力だぜ』

『あれでまだ20代だぜ? 信じられるか?』

『ルーナ知事が動かなかったから、臨時政府は発足しなかったんだろう? あの若さで大政治家のオーラをまとってやがる』

『バルセロク地方でいままで誰もなしえなかった港湾改革を達成した革命家って噂だろ?』

『それだけじゃねえよ。国で誰もやろうと思っていなかった教育改革すら軌道に乗せやがった』

『自由党の影の指導者っていうのはどうやら本当らしいな』


 随分と持ち上げられたものね。大事な演出とはいえ恥ずかしいわ。


 そして、王宮の前では国王陛下と宰相閣下が待っていてくれた。

 私たちは、馬を降りて、陛下たちに礼を尽くす。


「クルム、ルーナ、アレン、シッドよ。この度は、オリバー公爵の反乱の鎮圧ご苦労だったな。お主ら4人は、まさに国家の功労者だ。イブール王国最高勲章くんしょうを授ける。本当にありがとう。さあ、皆の者。この4人の英雄を讃えよう。彼らこそ、永遠に語らねばならぬ4人の勇者だ」


 群衆が歓声を上げる。私は、王子の顔を見た。彼の笑顔はゆがんでいた。血塗られた偽りの英雄がそこにいた。

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