第171話 黒幕

「なるほど、キミは私が今回の事件の黒幕だと言いたいんだね?」

 王子はやっと政治家の顔になった。

 ここからは政治闘争だ。


「まさか……そうはいっていません。でも、いろいろと辻褄はあうんですよ」

「聞かせてもらおうか?」

 王子は、引き返してソファーに腰かけた。


「はい。クーデター後の政界は簡単に予想できますよね」

「ああ、この後は論功行賞人事が発生するだろうね。特に、臨時政府を束ねた我々には、格別の恩賞が与えられるはずだ。私はおそらくどこかの省の大臣だろう。キミは、知事と兼任で終身名誉元老院議員に任命される。アレンは現役復帰を許されて2階級特進くらいが適当だろうね。あの年齢で史上最年少の将官の誕生だ」


 私も同じ意見よ。きっと、シッド将軍も同様に昇進して大将になるだろうけど。少々なら軍の中枢部分を担当できる。率いることができる兵力も1万を超える。さらに、シッド将軍が大将となれば、軍全体に大きな影響力を及ぼすことができる。


「シッド大将・アレン少将。自由党のシンパが軍の重要なポジションに君臨するなんてキミたちも嬉しいだろう? 自由党も大躍進だ」


「ええ、でもそれ以上にあなたが得をする。アマデオ殿下が亡くなったことで、次期国王レースは間違いなく、あなたに確定する」


「そうかもしれないが、叔父上はそれを許さないだろう? 彼は私を嫌って、キミの方を高く評価しているんだから」


「そして、宰相閣下もあなたはこのタイミングで失脚させるのでしょう?」


「ほう、どうやって?」


「まず、今回のクーデターは王都で発生しました。王都の責任者である総督と軍務大臣は引責辞任しなくてはいけないでしょうね。2人は宰相閣下の側近中の側近。軍務大臣と軍務次官の両翼を失った軍務省の次席は、あなたのしゅうとであるカインズ子爵。そして、論功行賞で空席になった軍務大臣には、新しく昇進するあなたが就くことが自然です。これで軍はあなたが完全に抑え込める」


「それはわからないさ。人事は国王陛下が決めることだ」


「……。そして、宰相閣下も辞任に追い込まれるでしょう。彼はクーデター側から名指しで批判されました。行政のトップとして、辞めざるを得ない状況になってしまっている。そもそも、こんな大規模なクーデターが発生するまで気づけなかったこと自体、失態ですから。ですが、気になることがあるんですよ。それは、宰相閣下がどうして実行されるまで、クーデターを知らなかったかです……国内に密偵をばらまき、情報収集をしているはずの内務省情報局はどうして、その情報を集められなかったのか? そこで、内務省のリムル情報局長があなたの側近中の側近であることに気づきます」


「……」


「あなたは、クーデターが起きることを知っていた。でも、情報局を裏で操りそれを隠ぺいした。あなたは、クーデター軍をわざと放棄させて、国王になるために邪魔な叔父上と弟君を失脚に追い込もうとした。違いますか?」


 私の追及に対して、王子は乾いた笑いを部屋にとどろかせた。


「さすがだな、ルーナ?」

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