第132話 第二王子の政治力

「まずは、現在の保守党と自由との議席数を確認せねばならないだろうな。元老院の定数は、475。そのうち、250を保守党が占めている」

 俺は自分たちの現状をまとめる。


「ええ、それに対して自由党の現有議席は不明なところもありますが、120程度でしょうね」


「その通りだ。たしかに、世間は2大政党制の誕生と浮足立っている。だが、現状を考えれば、2大政党とは言えない戦力差だ。言い換えれば、まだ保守党は1強と言えるだろう」


「ええ、そうですね。でも、それは数の視点だけにすぎません」


「ああ、お前の言うとおりだよ。だが、流れは向こうに傾いている。今までは、保守党以外の政党は、元老院に100席以上の議席を保有したことはなかった。ここまで大きな野党が誕生したことで、流れは間違いなく悪くなっている」


「おっしゃる通りです。このままでは次回の選挙で保守党は大幅に議席を減らします」


「しかし、保守党には王族枠・軍人枠と言う選挙によらない議席もある。それを考慮すれば次回の選挙では、安定過半数は間違いなく確保可能だ。問題は、次々回以降の選挙だろう。もちろん、このまま自由党が支持を広げればの前提条件がつくがな?」


 だが、ここまではアマデオも理解しているだろう。この会話はお互いの本音披露のための前座に過ぎない。


 本番はここからだ。


「さすがは兄上ですね。本当に優秀だ」

 完全なお世辞だ。


「これくらいなら、お前でもすぐに導ける結論だろう?」


「まさか」


「それで、お前の考えは何だ? ここからは政治家同士の会話でいこう。兄弟であることは忘れた方が建設的だ」


「では……」


「ああ、聞かせてくれ」


「まず、兄上の構想では、選挙によらない議員枠を基本としていますね」


「それと、自由党の伸びはいつか限界が来ると思っている」


「ですが……自由党が今後どんどん成長してしまったら……兄上の構想は破綻します」


「ああ。勝ち馬に乗ろうとする軍人や王族が出てくるかもしれない」


「アレンという大物も自由党に鞍替くらがえしましたからね?」


 挑発か。だが、俺はそれを無視する。


「大物が次々とそうなれば保守党は終わる」


「そうですよ、そして、その責任は兄上にもふりかかります」


「……」


「あなたは、ルーナ=グレイシアという才能を軽視した。彼女を追放したために、今ではあなただけではなく保守党までが危機にひんしている。あなたが彼女と結婚していればこうはならなかった。兄上は優秀ですが、他者を見下す悪癖は改めた方がいいでしょう。弟からのアドバイスです」


 そう言うと、ついでやったワインを飲み干して異母弟は退出する。


「くそが」


 俺はワインを一気にあおると、誰もいない部屋でそうつぶやいた。

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