第115話 暗躍
私は応接間に戻った。
「知事、通信はもう大丈夫なのですか?」
とぼけた振りをして子爵は笑っている。おそらくアレンからの要件はもう推測できるはずよ。
「ええ、ご心配には及びません。定時連絡ですから」
「ほう、私はてっきり大事な要件だと思っていましたよ」
「なにか心当たりでもあるんですか、子爵?」
「……」
笑いながらごまかしている。
「実はおもしろい話を思いついたんですよ。子爵、聞いてくださいますか?」
「ええ、もちろん」
「今回の海賊騒動をミステリーに仕立ててみたんです。仮にこの騒動に黒幕がいたとします」
「おもしろいですね。黒幕の目的はなんですか?」
「たぶん、ふたつあったんですよ。黒幕の一番の理想は騒動の間に私を暗殺すること。これはグラン船長も証言していますよね。港湾部長を失脚させた私を排除しようと思ったと」
「ええ。なら黒幕はグラン船長を操っていたと?」
「はい。操っていたというよりも利用して切り捨てたんだと思います。仮に私の暗殺に失敗した場合は、黒幕は別のプランを用意していた」
「ほう?」
「私の暗殺に失敗した場合は、港湾利権にメスが入ることになる。そうなってしまえばいままで自分を支えてきた財源を失うことになる。別の財源が必要になる」
「……」
「そして、暗殺に失敗した場合は、海賊団は壊滅する。彼らが本拠地に保管している財宝は無防備になる。小国の海軍を上回る勢力を誇っていたグラン海賊団です。その財力はへたな国家を上回るものを持っていたはず。それを奪い去れば……港湾利権を失ってもお釣りが来る利益を黒幕は手にすることになります。そして、今までの黒い組織とのつながりも清算できた」
「なるほど。そうなれば黒幕にとっては今回の海賊騒動が成功しても失敗してもどちらでもよかったんですね」
「はい。もしかしたら黒幕は今回の騒動に失敗してほしかったのかもしれません。自分の娘が王子のもとに
「なるほど、確かにすべてのつじつまはあっているね。だが、それはキミの妄想に過ぎない。キミは政治家よりも小説家になった方がいいんじゃないかな」
「あなたがやっていることは史上最低最悪の大量殺人です。何の落ち度もない住民を自分の欲望のために傷つけ殺す。自分を信じていた子飼いの部下を平気で切り捨てる。その野望の先にあるのが、海賊団が違法行為で集めた財宝の略奪」
「……ふん、下等な者たちを切り捨てて何が悪い?」
ついに本性を現したわね。
「あなたはその程度の器よ。自分が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます