第84話 サプライズ人事
「副知事はクリス男爵にお願いしようと思っています」
クリスさんは私たちのために影から支援してくれた。王子とも決別を決心したみたいなので私を直接支えてもらおうと思っているわ。
彼はとても誠実な人。保身も考えているけど、今までの難しい局面でうまく立ち回っているから政治的なセンスも申し分ないのは証明済み。
アレン様は元老院議員だから、副知事にはなれない。
なので、私達の陣営で公式な役職についていなくて、能力と性格を一番信頼できるのは男爵だからね。すでに、本人にも伝えてあるわ。彼も快諾してくれた。
『ここまで来たらもう引き返せませんからね』とクリス男爵は笑っていた。男爵も今までの関係を捨ててまで私についてきてくれる。この気持ちを無駄にするわけにはいかない。
秘書課長は頷く。
「わかりました。手続きはこちらでやらせていただきます。もう1名の副知事はどういたしますか?」
信頼できる側近は確保した。なら、もう1名は実力重視で選びたい。
「これはサプライズかもしれませんが……」
私は少ない可能性に賭けた。
「ロヨラ=フォン=シーロ前知事にお願いをできたらと思っています」
「前知事をですか!? そんな異例な人事をおこなえるとでも! 選挙の時のライバルを副知事にすえるなど前例がありません」
「異例なことはわかっています。しかし、ロヨラ前知事に協力していただければ私の目指す理想に間違いなく近づく。リスクはありますが、賭けてみたいのです」
「結果的に副知事が不在となってしまえば、ルーナ知事のリーダーシップに疑問を持たれることにもなります。ロヨラ前知事は仕事にプライドを持っていた方です。そんな方が降格人事のようなことを受けてくれるとは……思いませんが……」
「ええ、私も無謀だと思っています。でもね、秘書課長? 平民の私が選挙に勝てるなんて誰も思わなかったはずです。ここにいることだけでも奇跡なんですよ。だから、最善を尽くしてみたいんです」
「わかりました。本人には、どう連絡しますか」
「私が直接出向きます。その方が誠意が伝わるでしょうから」
最初から難しい問題に直面してしまったわ。でも、やりきるしかない。
「それで地方庁幹部が待っています。最初の顔合わせを行いましょう。知事は自分が考える理想をぶつけてみてください」
おそらく私に反感を持っている幹部もいるはずね。平民身分の元貴族の女が知事として就任してきたら古い考え方の人は屈辱に思うだろう。だから、ここからは戦いだ。
私は会議室に向かう。
廊下に靴音が響いた。
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