第67話 でーと? 仕事?
私たちは引き継ぎを済ませて外に出る。まだまだ忙しいわね。
この後は仕立て屋さんでドレスを受け取って、アレン様が地元の有力者と会食する場を設けてくれたからそちらにも出席するわ。
あと、書類のミスがないか事務所に戻って確認ね。
「ルーナ、こっちだよ」
アレン様が用意してくれた馬車の前で手を振っている。
「お待たせしました」
「大丈夫だよ。引継ぎが無事に終わってよかったね」
「はい。ロヨラ知事もかなり友好的でしたし……」
「うん。ロヨラさんはルーナのことを高く買っているみたいだね。噂が聞こえてくるよ」
「えっ?」
「ルーナは恐ろしい政治家だとか、天性の怪物とか――敵ながら高く評価しているそうだよ」
「それって高く評価されているんですかね?」
「政敵に恐れられているなんて最高の評価だろう?」
「私の女としての部分が泣いていますよ」
「いいじゃないか。ルーナの女性としての部分は僕が評価しているからさ」
うっ、またいつものように不意打ちね。
そういうことをサラッと言われちゃうと反応に困る。嬉しいけど恥ずかしいから……
「そうやって赤くなるところは、希代の若手政治家ルーナ=グレイシアから年頃の女の子に戻っていてかわいいよ」
「もう、あんまりからかわないでくださいよ。今日はこの後も仕事が残っているんですから」
「そうなのかい? てっきり、私はデートに行けるものだとばっかり思っていたよ」
「みんな頑張っているんだからさぼろうとしないでくださいよ」
そんな話をしていたらお店に到着した。
※
「ルーナ=グレイシアです。ドレスを取りに来ました」
本屋さんに紹介されたお店。店主の方が気さくで安心して買い物ができる。
「こちらの2着ですね。準備できておりますよ」
「えっ!? 私が注文したのは紺のドレスですよ。ピンクのドレスなんて注文していな――」
たしかにどっちにするか悩んだんだけど……シックな紺のドレスを選んだのよ。
私が混乱しているとアレン様が笑っている。
「それは僕が注文したんだよ。ルーナへのプレゼントさ。さすがにドレスが1着だけというのも困るだろう?」
「そんないただけませんよ。こんな高いもの……」
「大丈夫だよ。婚約者にプレゼントをあげるのに理由なんていらないからね」
「でも……」
「店主さん、実はこの後、会食なんだ。悪いけど、そのピンクのドレスを彼女に着せてあげてくれないかな?」
「ええ、もちろん。試着室にご案内しますね、ルーナ様?」
えっ、ちょっと待ってとも言えない状況で私は試着室に案内されてしまう。
彼の紳士的な対応に、なぜか胸の高鳴りが止まらない。
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