第61話 現知事
結局、エル=コルテスの代理に保守党からはロヨラ現知事が引退を撤回して出馬した。彼も本当は出馬したかったらしい。やっぱりクルム王子陣営の圧力があったのね。
とはいっても保守党から推薦を受けているからって、エル=コルテスよりも密接な関係にないから支援も限定的。
さらに出馬するための準備期間もほとんどなかったのは厳しいようね。
新聞の世論調査でも私たちの方が支持率は10ポイント以上高い。
彼は今までの知事時代の実績をアピールして何とか
3期12年も務めた現知事の人気には陰りが見えているわ。
さすがに同じ人が10年以上地方のトップにいると問題も多く出てくるものよ。
そして、今日は候補者討論の日。
ロヨラ知事と私が同じ壇上で討論する。
今回はお互いに誰の助けも借りずに壇上で戦い合うのよ。
私は緊張しながら壇上に用意された席に座る。
会場には数千の有権者が私たちを見守っているわ。
前に座る現知事は白髪でがっしりとした体形の初老の男性。
酸いも甘いも知る老獪な政治家。意志は強く自らリーダーシップを発揮するタイプの人らしいわ。
逆に独善的になりやすく孤立感を深めやすいのが弱点とも……
ただ、こういう時の押しの強さは武器ね。
周囲を納得させてしまう力強さはこういう議論においてかなり有効だから――
だから、今回は相手の攻撃を流すような形で今あるリードを守る。
相手の得意な場所で戦わないようにして私の得意な場所で戦う。
相手はキャリアが豊富だから正面からいっても勝ち目はないわ。
「それでは討論を始めたいと思います。まずは、ロヨラ知事お願い致します」
司会の人はそう言って開会を宣言する。
「ご紹介いただきましたロヨラです。しかし、紹介は不要ですな。ほとんどの方は人生で一度は私に投票してくれたはずですから」
会場は知事の軽口で笑いに包まれる。
「本来、私はここにいるはずではない人間でした。エル議長という素晴らしい後継者を指名したのですから……惜しい人を失いました。彼は私の作った道を継いでくれるはずでした。その彼がいなくなってしまった以上、私は今までの自分の功績に責任をつけなくてはいけません。今回の選挙が私にとって正真正銘の最後のものになるでしょう。よって、皆さんの力を借りて亡き友のためにも私は4期目の知事を目指す
会場は拍手で包まれた。
うまいわね。あえて人間の心を揺さぶるような演説。
エル議長との友情や今まで自分が作り上げた仕事の責任を訴えかけられたら否定することもできないわ。
次の私の演説で盛り返さなくちゃ現知事の独壇場になってしまうわ。
「それではルーナ=グレイシア候補どうぞ!」
私は席を立ち演壇に向かう。
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