第60話 粛清後の選挙

 説明会の夜。私たちはバルセロナの事務所で休んでいたわ。

 さすがに忙しくなってしまったから、村の家じゃなくてこちらの事務所を拠点にしているの。


「ルーナ様、アレン様!! たいへんです、エル=コルテスが死亡しました!」

 本屋さんが慌てて休憩室に入ってきた。


「「えっ!?」」

 私たちは同時に驚きの声を上げる。

 だって、さっきまで一緒だったのよ。私たちに論破されて暗殺にも失敗して逃げるように帰っていったのに……


 その彼が急死!?


 不自然すぎるでしょ。


「一体何があったの?」

 私の問いかけに本屋さんも動揺しながら説明してくれた。


「どうやら、自分の部屋にいた時に外から狙撃されたらしいです。頭と胸を……部屋の中はワインと血にまみれていて真っ赤に染まった床に倒れていたと……」


「警察が発表したのね?」


「はい。さきほど発表したようですね。警察としてはさきほどのルーナ様の暗殺未遂は陽動で、エル=コルテス議長の暗殺が本命だったと考えていると言っていました」


「……」


 あまりにも不自然な暗殺事件ね。

 確かに警察の発表にも一理ある。


 でも、わざわざそんな回りくどいやり方をする必要性がないわ。


 エル=コルテスは護衛も連れずに会場にいた。彼が本命だったならばあの場で狙撃した方が安全で確実のはずよ。


 なのにあの絶好の場所で実行しなかった。

 

 窓から狙撃する?

 明らかに難しいやりかたよ。確実に暗殺したいなら護衛がいるかもしれない事務所にいる標的をわざわざ狙う必要がない。


 失敗する可能性の方が高いもの……


 つまりここから導かれるのは結論はただひとつよ。


「彼は消されたのね。クルム第一王子の陣営に……」


「えっ!?」


 本屋さんは驚いている。


「おそらく自分たちの陣営には邪魔になったのよ。私の暗殺未遂という暴走で自分たちにも不利益を被ることになったから……このまま生きていてもクルム王子の陣営が平民の私に負けたということは今後の政争にも影を落とすわ。ただですら、宰相様に押されているこの状況でそうなれば権威が地に落ちる。今後被る不利益のことも考えれば、エル=コルテスにはここで消えもらった方がいい。そういうことよ」


 アレン様は目を閉じながらうなずいている。


「ついに手を血で染めてしまったか……」


 彼は残念そうにつぶやいた。

 それだけはさせないようにしていたものね。


 私を助けてくれたのは、彼の手を汚さないようにするためだったのかもしれないわね。


「保守党は後継候補を出すつもりなのかしら?」


「前知事が欲を見せているそうですが、理解が得られるかどうか……」


「そう。いくらライバルだったとしても、弔辞ちょうじは出しましょう。準備をします」


 私はひとりになってペンを持った。


 私たちの敵は大きすぎるわね。


 その恐怖に駆られながら……

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