第27話
「はっはー。やはりチキンブリトーで始まりチキンブリトーで終わるのだよ」
「いやあ、何回見ても飽きないねー。あの戦艦ドリフトの所とか最高だよ」
「もう一回見るか?」
「ミズーリ抜錨シーンから見たいね」
「任せろ」
「よっしキタキタ」
最後までボルテージ上がりっぱなしで映画を見終わった由実と雅は、興奮冷めやらぬ様子のまま、チャプターで記念艦が戦艦に復帰するシーンを見直し始めた。
「楽しそうに見るわね本当」
「すや……」
「由実先輩、一応打ち終ったんですけど、もう食べます?」
やや音が抑えられた小気味良い生地を刻む音が止まり、手に粉を付けたままの美名美が再び顔を出して訊いた。
「いや、年越しまでは待とう。美姫くんも寝ている事だからね」
「あ、はい」
こたつから出て立ち上がった由実は、そう返してディスクを入れ替えるためにテレビの前へと移動した。
「次は何を見るんだいセンセイ氏」
「『カウボーイビバップ』全話一気見だぞ」
「おお。ついに手に入れたのかい!」
プレーヤーの下にある棚からブルーレイディスクボックスを取り出し、ニヤッと笑いつつ肩の高さでそれを持って雅に見せると、彼女は歓声を上げてパッケージをまじまじと見つめた。
「んー。マーちゃん、もうさっきの終わったっす……?」
「ええ。他の見るみたいだけどどうする?」
「年越し蕎麦になったら起こしてっすー……」
「はいはい」
「あっ、なんだか凄く有名な作品なんですよね」
「うむ。海外にもファンが多い、名作中の名作であるよ」
ディスク1のケースを取りだした由実に、手を洗って戻ってきた美名美は興味深そうな様子で話しかけた。
「私どこに座ればいいです?」
「君が嫌では無いなら私の隣はどうかね」
「じゃあそれで」
4方向埋まっているため、座る位置に迷っていた美名美はそう促され、由実が座っている位置の右端に入った。
途中、1話おきにトイレや年越し蕎麦の調理のために休憩を入れつつ、全話見終わる頃にはすっかり深夜になっていた。
真梓も眠気に撃沈してしまい、最後まで見ていたのは由実と雅と美名美の3人だった。
「センセイ氏ー、ボク電池切れたから寝させて貰うよ」
「おお、そうか。これを使いたまえ」
こたつ布団だけでははみ出してしまう雅のために、由実は自分のベッドの掛け布団を雅に渡した。
「サンキュー。ってなんか重くないかいこれ?」
「そういう布団なのだ。なかなか寝心地がいいぞ」
「へー。ああ、確かになんかこう、適度な重さで、落ち着くね……」
渡されたそれの重量に怪訝そうな顔をしたが、雅は実際にかけてみてそれを実感し、座布団を枕に気持ち良さげな表情で眠りについた。
「時に美名美くん」
「はい?」
携帯電話をいじっていた美名美へ、由実が普段よりおずおずといった様子で話しかけた。
「その、美姫くんには最近敬語つかわないじゃないか」
「ですね。美姫さんがその方が良いって言うので」
「君が良ければ、私にも使わないでもらって構わないぞ」
ややむっつりした顔で、真梓とくっ付いて寝ている美姫を見やって、画面から顔を上げている美名美へと言う。
「あー、その、もう少し経ってからでも良いですか? いきなりはなんかこう……」
「――うむ。無理強いはしないぞ」
不安がっている美名美を見て、由実は少しだけ寂しそうな表情を隠しながらそう言うと、チャンネルをアパート風のセットで若手芸人がネタを披露する番組に変えた。
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