第16話

 昼前、いくつもの鉄塔が見えてきた。山頂が近い。

「なんか、山の上とは思えないっすね」

 生駒山上はテレビ塔が立ち並び、さらには遊園地がある。三角点も遊園地の中にあるのだ。

 ここまで来ると、去年も通った道だ。あのときは、泣きそうだった。泣いていたかもしれない。

「かーみーのくんっ」

 もう、道は広い。南宮さんが駆け寄ってきて、僕の肩を叩いた。

「どうしたの」

「来れたね」

「ああ。来れた。でも、下りもあるから」

「大丈夫だよ」

 振り返ると、お父さんが微笑んでくれた。南宮さん親子も、今回の登山では何かを乗り越えようとしているのだ。それが、達成できそうということだろうか。

「私も、今日は熱出なかった!」

「だから、下りもあるよ」

「ふふ、大丈夫」

 シャッター音が聞こえた。荒津君が、僕らのことを写真に撮ったのだ。

「ちょっと、今まで人物なんか撮ってなかっただろ」

「いや、いい光景だと思ったから! また現像してあげますから!」

 南宮さんは笑っていた。だから僕も笑った。そして、今回も、泣きそうになったのだ。みんながいてくれてよかった。本当に良かった。



 郵便受けを開けると、一枚の手紙が入っていた。差出人は書かれていない。消印は兵庫だった。

 そして本文には、「写真ありがとう」とだけ書かれていた。

 それだけで、誰だかはっきりと分かった。

 今ならまだ引っ越し先に転送されるはず、そう思って写真を送ったのだ。

 あいつは、きっとまだ未練があるのだ。山が嫌いになったはずはない。

 先日撮った写真は、全て現像してある。

 ただ、生駒の写真は、まだ送らない方がいい気もする。あいつは、乗り越えるための何かをしたわけではないのだから。

 返事をくれただけでいい。そう思うことにした。あいつは山以外の何かを見つけるかもしれない。

 大阪の光のその向こうで、あいつは生きている。


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