第14話
「先輩、どうっすかこれ!」
荒津君がそう言いながら差し出したのは、ノートぐらいの大きさがある写真だった。夜空に星が瞬いている。
「これ、合宿の時の?」
「そうっす! 六つ切りで現像してみました」
綺麗だった。あの日見たのとは異なる、完成された美しさがあった。荒津君はこういうものを作りたくて、写真を撮りまくっているのだろう。
「いいね。……あのさ、これって焼き増しできる?」
「できますよ。あ、俺はまた焼くんで、これいいっすよ」
「本当? ありがとう」
あの日の星空を、どうしても見せたい人がいる。そして、早くしないと、手遅れになってしまうかもしれない。
「お父さんと会うことになったんだ」
学校からの帰り道。南宮さんが小さな声で言った。
「そうなんだ」
今日は部活が終わった後、二人で図書室に行った。英語の課題で調べ物をする必要があったのだ。南宮さんは成績もよく、たまに勉強のことでもお世話になっていた。
「うん……ただ、みんなの許可貰わなきゃ」
「え、みんな?」
「フィールドワーク部、見てみたいって」
「え、え」
「ねえ、今度、生駒に登らない?」
声が出なかった。一度の二つの感情が湧き出てしまって、自分でもどうしたらいいかわからない。ただ、驚きの方は徐々におさまっていった。
「生駒……なの」
「私、生駒好きなんだ。でも……神野君は避けたいみたいね」
「友達と、最後に登った山なんだ」
あの時のことは、一生忘れられないと思う。僕は、あいつを置いていくことなんてできなかった。リタイアさせようとも思うはずがなかった。ただただ、一緒に登りきることだけを考えて、結果、山そのものはただの手段になってしまった。
生駒に登れば、いやでも鮮明に思い出してしまうだろう。
「一年生にも、あの山のいいところ知ってほしいって思ってるんだ。でも、無理にとは言わない。ただ……もう、神野君は立派なフィールドワーク部員なんだよ」
「それは、どういう意味?」
「駆け上がっていく必要はないの。もう一度、フィールドワーク部員として、生駒を登ってみない?」
何も返答はできなかった。ただ、自分でもわかっていることなのだ。いつまでも逃げているわけにはいかない。生駒山は、いつも僕らの目の前にある。
フィールドワーク部に入って、素直に山を楽しめるようになった。その点では、乗り越えられたんだと思う。
今の僕ならば、あの山を越えられるだろうか。
「私もね……お父さんと登るって、緊張する。でも、そういうもやもやを抱えたまま過ごしたくないから。体調とかも、気になってるんだよ。また熱出たらどうしようとか……。そういうものをさ、山で振り切れるかもしれないって思わない?」
「それは、わからないよ」
「まあ、そうだけどさあ」
南宮さんは口をとがらせてみせた。思わず吹き出しそうになる表情だった。
「行くよ」
「本当?」
「ああ、決めた」
どうなるかはわからない。でも、けじめはつけないといけない、そう思った。
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