第12話
午後からは雨になった。残念ながら、おまけの星空はなかった。
南宮さんの熱も随分と下がり、おかゆも少し食べて、今はぐっすりと眠っている。家とも連絡がついた。このままならば明日には下山できるだろう。
「じゃじゃーん」
「何それ」
「えー、もちろんカピバラっすよー」
外に出ることもできなくなった僕らは、記憶力クイズなどをして楽しんでいた。荒津君は絵が下手だということが分かった。
「久佐木君は絵上手いよね」
「そんなことは……」
「こいつ、画家目指してるらしいっすよ」
「そうなんだ」
「……はい」
こういう時間は、何よりも楽しいのだ。刹那的ではあるけれど、欲しいと思ってもなかなか手に入れられない時間。
「おおー、久佐木は画家志望か。荒津は何になりたいんだ」
「俺は公務員っす!」
「写真家とかじゃなくて?」
「仕事にしたらつまんなくなると思うんで」
「現実的だなあ」
「先生は先生になりたかったんですか?」
「いや、宇宙飛行士だ。高いところが好きなんだな」
夜も深まり、どうでもいい話がとても面白くなってきた。先生もいろいろな話をしてくれた。
「水浴びしてて服が流された時は焦ったな。俺のシャツが滝を下ってったから」
「どうしたんですか」
「友達に上着だけ借りたんだ。気持ち悪かったなあ。……お、もう大丈夫なのか」
先生の視線の先に目をやると、南宮さんがいた。まだ顔色は良くない。
「ごめんなさい」
南宮さんは、深々と頭を下げた。それは、涙を隠すためでもあったように見えた。
「気にするな。誰でもあることだよ」
「でも……」
「明日元気に帰れるように、寝てなさい」
「……はい」
南宮さんは、よろよろとした足取りで戻っていった。
「色々と背負って来たからなあ」
先生はつぶやく。僕らは、半年分の、リーダーとしての南宮さんしか知らない。先生にしかわからない南宮さんは、きっと色々な苦労をしてきたのだろう。
「俺、南宮先輩が部長で良かったっすよ」
「……僕も……です」
「なんだなんだ、そういうことは本人のいるところで言ってやれ」
夜は更けていく。僕らは、いっぱい笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます