第8話

「わー、いっぱいあるんすね」

「もっと大きな店もあるぞ」

「思ったよりかっこいいのありますね」

 荒津君は、リュックを見てテンションが上がっている。ここは、近所のアウトドアショップだ。

「うわー、でけー」

「一泊ならこんだけなくてもいいかもね」

 今日ここに来たのは、荒津君が今度の合宿で使うリュックを買うためである。彼だけ大きなものを持っていなかったのだ。

「わー、ポケットこうなってるんすね。おー」

 全てが珍しいようで、荒津君の目は輝きっぱなしである。自分にはこんな時期がなかったなあ、なんて思う。

「50リッター……てどれぐらいすか?」

「泊りなら十分だよね。来年は二泊するかもしれないし、それぐらい買ってもいいかもね」

 決めるまでにはしばらくかかりそうなので、店内をうろつくことにした。やはりこういう店に来ると、見たいものはたくさんある。

 今特に気になっているのは、水筒だ。新しいタイプのものがたくさん出ていて、見ているだけで楽しい。

「私もこれ気になってたんだ」

「へー、そうなん……津久田さん」

 いつの間にか隣にいたのは、かなり長身の女子だった。

「偶然だな。今日は南宮はいないのか」

「うん。後輩と二人で」

「なんだ、いっつも一緒ってわけじゃないんだな」

「当たり前だろ」

 そういえば、この店にも以前三人で来たことがある。お金がないので、眺めながら喋るだけだったけど、楽しかった。

「楽しいのか」

「え」

「そっちの部は」

「楽しいよ」

「そうか」

 それ以上、会話はつながらなかった。

「先輩、これにします! あ……」

「おお、いいんじゃないか」

「えっと……邪魔でした?」

「いや。よし、買いに行こう」

 ちょっとだけ頭を下げて、僕はその場を後にした。僕らはもう、そうするしかない関係なのだ。

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