第7話

「では、準備を始めます。まずは、地図を畳んでください」

 みんなの机には、国土地理院発行の大きな地図が広げられている。これを持ち運びやすいように、そして広げやすいように折るのが今すべきことである。

 二回の実戦を終え、次はいよいよ夏休みの一泊登山である。これまでより多くの準備が必要となることは間違いない。

「できたかなー」

「完璧!」

「では、もう一度広げてください。はい、まず宿の場所に丸を付けて」

 皆で地図に必要な事柄を書き込んでいく。等高線から見えてくる山の形に、期待が膨らんでくる。今回は、かなり本格的な登山になること間違いなしだ。

「いい、雨が降るかもしれないし、倒木があるかもしれない。決して予定通りやれば必ず安全、というわけではないからね」

 誰かと競うわけではないだけで、気を付けることは登山部のときと変わらない。山では常に臨機応変さが求められる。最悪道に迷っても生きて帰ること、そこまで想定しておかなくてはならない。

「質問っす!」

「なに、荒津君」

「夜空は、キレイっすか?」

 なんとも彼らしい質問だった。

「それはどうかな。自分の目で確かめるしかないんじゃない」

「そうっすか……でも、キレイだと思います!」

 確かに、泊りで行くのだから夜空は楽しみだ。

「隊列は今まで通り行くけど、状況によっては変えます。あと、当日までに体力作りもしないとね」

 南宮さんも、随分とリーダーっぽくなってきた。自分以外みんな新入りという状況で、プレッシャーも大きかったと思う。

 彼女が登山部に入っていたら。上手くやれた気がする。ただ、リーダーにはなれなかっただろう。津久田さんの顔を思い出す。

 今いる四人は、フィールドワーク部が合っているのかもしれない。そんなことを考える。

 とはいえ僕は、どこかで物足りなさも感じている。それは、ちゃんと自覚している。だからまだ、色々と努力しなきゃいけないんだと思う。

 僕らは、バラバラになってしまった。でも、それぞれの場所で頑張れればそれでいい。そう、納得するしかない。


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