第6話
坂を上って、右に曲がる。さらに少し歩いた先に見えてくる、アパート。
小学生のときにはよく来た。家の中でも遊んだし、裏山で探検と称して走り回っていたこともある。
103号室の前についた。深呼吸をして、チャイムを押す。反応がない。しばらく待っても、物音すら聞こえてこない。誰もいないのだろうか。
もう一度押しても、同じだった。
そして、気が付いた。表札がない。表に出て確認すると、ポストのネームプレートもはがされていた。
くるりと回り外から部屋を確認すると、カーテンのない部屋の中は、空っぽになっていた。
もう、ここにはいないのだ。
膝から力が抜けて、その場に座り込んでしまった。何も学校に来なくなることはないじゃないか、そう思っていた。けれど、家族で引っ越してしまうほど、あいつの悩みは深かったというのか。
それともたまたまなのか。たまたま何らかの理由でいなくなっただけだと、そんな風に思ってもいいのか。
思えない。
あいつは、本当に山が好きだった。確かに体力がなくて、少しどんくさかったけど、気持ちはだれよりも強く持っていたはずだ。
そんな彼が成長するのを、先輩たちは待ってはくれなかった。
僕らは駆けあがらなければならなかった。山の空気を楽しむ余裕もなく、息を切らして走らなければならなかった。
入学したときには、フィールドワーク部のことなんて知りもしなかった。より高いところにしか興味がなかったのだ。でも、僕らはつまずいた。あいつは登ることができなかったし、僕は登ることを拒否した。
もっと早く気が付いていれば。あいつが全てを諦める前に二人で逃げ出していれば。
後悔しても、時間は戻ってこない。
あいつはもう、ここにはいないのだ。
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