第6話彼女の視線のさきには──

ある休み時間。

俺は、席で文庫本を読んでいた。誰もが一度は、手に取ったことのある小説家の文庫本だ。

「ねぇ。ねぇってば、愛莉。どうしたの、さっきから屋那瀬ばっか見て」

離れた場所にいる心咲頼達のグループの一人が心咲頼に聞いている。

「えっ、あいつのどこがいいの?」

「何でもないし、いい悪いの話じゃないよ」

心咲頼は、手を振って、否定している。慌てた様子も見せず、いつも通りだ。

「ふーん。もしかしてと思って。愛莉って付き合ったことある?」

「ないけど。勇気が出なくて、告白出来なかったこと──」

俺と心咲頼の関係は、心咲頼達のグループやクラスメートなどには一切知られていない。

挨拶や会話を心咲頼からすることに違和感を感じる者はいない。誰彼構わず、楽しそうに話を振ったり、聞き手に回るから。

心咲頼の恋ばなに興味が移ったようで、俺に関して追及は逃れたようだ。

心咲頼達のグループの近くにいた連中が恋ばなに興味があるようだ。

それにしても、心咲頼が付き合ったことないとは思いもしなかった。

俺は、文庫本を読み続ける。


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