第4話オムライスを食べさす彼女

意識が戻り、上体を起こすと額から濡れたフェイスタオルが落ちる。

立ち上がり、窓の外が薄暗いのに気付く。

一時間は、意識を失っていた感覚だ。

心咲頼は、いない。一階からかすかに彼女と弟の会話が聞こえる。

「お姉ちゃん。腹、へったあ」

「服を引っ張らないでよ。今作ってるから、待って」

ほのぼのとした心咲頼の家族が羨ましい。

天井を仰ぎ見て、ふぅー、と息を吐き出す。

誤解は解けたのだろうか。

「あっ、起きたんだね屋那瀬くん。心配したんだよ、急に倒れるから」

静かに扉が開いて、彼女が駆け寄り、微笑む。

「ごめん、心配させて。心咲頼さんが抱きついてきたから」

「嫌だった、私に抱きつかれたの?」

顔を近付け、聞いてきた。

「嫌じゃないけど。なんて言うの、事前にいってほしい、というか......」

「よかった。嫌われたのかなって、思ったから安心したよ」

「心咲頼さんを嫌いになるわけないよ。今まで通り、接してくれるでしょ。心咲頼さんは」

「うん。屋那瀬くんに嫌われないように精進するから」

「頑張りすぎないでね、学校みたいにさ。それで身体を壊されると、ものすごく心配になるから」

「気を付けるよ。そんな優しい屋那瀬くんだから、安心するんだ。私」

俺は、彼女の頭を撫でた。

彼女はご満悦のようで、えへへと笑っていた。

「夕飯食べていってよ、屋那瀬くん。持ってきたの、オムライス」

「俺の分まで。夕飯をよばれるのは気がひけるけど......ありがとう」

「屋那瀬くん。食べさせてあげる、はい」

彼女がスプーンで掬い、食べさせようとする。

「それは恥ずかしいよ......心咲頼さん」

「昼休みのお返しだよ。私のこと嫌いじゃないでしょ?」

「そう言われても......わわっわかったから、泣かないで。はい」

「美味しい、屋那瀬くん?」

「......美味しいよ。心咲頼さんのお母さんたちのはあるの、気になるんだけど?」

「気にしなくていいよ。はい、あーん」


俺に、オムライスを最後まで食べさせて、肩に頭をのせてくる彼女。

「そろそろ帰らないと、親が心配するから......」

「そう、なんだ......」

「明日の昼休みも話すんだから、そこまで悲しむようなことじゃないでしょ。心咲頼さん」

「じゃあ、起きたら屋那瀬くんに連絡していい?」

「いいよ。今日はこの辺で帰るよ、いつもありがとう。心咲頼さん」

俺は、立ち上がり彼女の部屋を出て、一階におりて玄関で靴を履く。

「お邪魔しました。心咲頼さん、また明日ね」

「またね。屋那瀬くん、私の方こそいつもありがとう」

俺は、彼女の笑顔を見て、心咲頼家を後にした。



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