1話

「危ない!」


おろしたてのスーツを着ていつもより清々しい気分で信号を待っているときだった。


赤信号だというのに進もうとする彼のスーツを私はとっさに引っ張った。


勢い余って二人して道路に倒れ込む。目の前を大型トラックが過ぎていった。


「何してるんですか!」


怖かったし、驚いて思わず大きな声を出してしまった。

もう少し遅かったら大事故になっていだろう。

私は隣で言葉を失っている彼を振り返った。


「信号赤でし――…」 


そこまで言って息をのむ。

こんなに綺麗な人は初めて見た…。

透き通るような肌に長い睫毛に縁取られた瞳は少し潤んでいる。


「すみません…!怪我してないですか?」

「あ…はい、平気です…。」

「そうですか…本当に申し訳ありません。」


そう言いながら立ち上がる彼に思わず見惚れてしまい気付けば先程までの興奮は落ち着いていた。


信号が赤から青に変わる。


「では失礼します。」

そう告げると彼は会釈を一つして行ってしまった。


え、それだけ…?

お礼とか言わない?普通。

謝ってはくれたけど。

私が勝手にやったことだけど、なんだかスッキリしない。


ため息をつくとスカートに誰かのこぼしたコーヒーでシミができていることに気付いた。

…ついてない。

清々しい朝が台無しだ。





私、四宮しのみや美雨みうはデザイン会社に勤めてる。

今日は私の所属する課に本社から新しい課長が来ることになっている。

それなのに朝のことがあり遅刻してしまった。


オフィスにつくと中から賑やかな声が聞こえる。

もう新しい課長が来ているのかもしれない。

入りにくいな…。

でもいつまでもこうしてるわけにもいかない。


意を決して中に入る。


「四宮!おせーよ。ちょうど今本社からいらした浅羽さんに自己紹介してもらってたところだぞ」


やっぱり。

私の第一印象悪いな…。

若干沈んだ気持ちになりながらも声方に目を向けた。


驚いた。


「本社からきました浅羽あさば圭佑けいすけです。」


そう言って微笑んだ男性は今朝私が助けた彼だった。

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