第38話 記憶

<記憶>


この星にも大きな海がある。地球とよく似た青い海だ。


波もザブーン、ザブーンと一定の間隔を置いて自分の近くにきては遠ざかっていく。


一連の戦いの後、レインはヒョウからここ最近の出来事の全てを聞き、

大きなこの海を眺めながら一人考えごとをしていた。


心地よい風がレインを慰めるように漂い、

少しだけ磯の香りがした。


レインは葛藤していた。


自分が犯してしまった罪は一生消える事が無い。


このまま自分は生きていて良いのか……

いっそのことオッドに消去されていた方が良かったんじゃないか……。


様々な思考を張り巡らさせていたその時、

レインの後ろからヒョウの大きな声が聞こえた。


「レイン! 海に行くなら一言言えよ! 俺が海好きな事、知っているだろう?」


「ああ、そうだったな。でも一人で色々考えたくて」

海を見つめ少し悲しい表情でレインは言った。


「そうか。で、何を考えてたの?」

ヒョウはレインが何を考えているか大方予想はついていたが、

レインの口から直接聞きたくてあえて聞いた。


「ヒョウ、俺……このまま生きていて良いのかな……

自分が犯してしまった罪がある。

それが発端でこのような出来事を巻き起こしてしまった。

自分だけがこの先ものうのうと生きていくことなど無責任で出来ない……」


ヒョウはレインの目を真っすぐ見つめ次の言葉を待っている。


「ヒョウ、俺……」

レインの言葉が詰まったその瞬間、ヒョウは語り掛けた。


「レイン、確かにお前が過去にやったことは絶対に許されないことだ。

しかし、お前は確かに今ここに生きているんだよ。

これから生きていく上で何かできることは無い? 

罪を償う為に死を選ぶの? 

シェリーはそれで喜ぶのかな」


レインはヒョウの言葉を聞き、黙り込んでしまった。


自分に出来ることは何か。

それを必死で考えていた。

しかし、考えても……考えても……考えても……答えは出てこない。

死んで直ぐに楽になってしまいたい。

消えてしまいたい。

そういう自分の気持ちと葛藤していた。


しかし、

ヒョウから聞いた最後の最後まで果敢に戦ったキースのことを思い出すと、

残された自分の命を自ら断つことこそが無責任にも思えた。

そして、レインは目を閉じてゆっくりゆっくり呼吸をした。

心地良い潮風が全身に漂う。


その時、その風に乗せて懐かしい香りと共に、

あの日のシェリーの言葉がゆっくりと思い出されてきた。


——過去は過去よ。

過去を全く無かったこと、消し去ることは出来ないし消す必要も無いわ。

私達に出来ることは過去から学び、

今出来ることを一生懸命に考え精一杯やることよ。

“今ここ”の積み重ねがこの先の未来へと繋がるのよ。


諦めてはいけない。


いつかきっとあなたにもわかる日が来る——


「……わかったよ。シェリー」

レインは心の中で呟いた。


そして、ゆっくり目を開いて口を開いた。


「ヒョウ、俺、ずっと、自分はこのまま生きていてはいけない、

だからいっそのこと死んだ方が良いんじゃないか、そう考えていた。

でも……色々考えて、今自分に出来る最大限のことはそれでは無いと思う。

もちろん今すぐに自由にという事では無い。

だから先ずはしっかり罪を償おうと思う。

その後は自分がこの世界で出来ることを一つ一つやっていこうと思うんだ」

ヒョウはレインのその話を聞き、その言葉を飲み込みながら答えた。


「分かったよ。レインが一生懸命考えて決めたこと尊重するよ。

過ぎてしまった過去に対して僕たちが出来ることは無い。

出来るのは今、そしてこれからの未来に対してだ。

死ぬことなんていつでも出来る。

それであれば今できる、

今できる最大限をやっていこう!」


「分かった。ありがとう、ヒョウ」


「俺たちはこれからもずっと、ずっと、ずっとこの先も兄弟だぜ」


その後、レインはAI警察に自首し収監されることとなった。

AIによる裁判が行われ、

自ら自首したこと、そして本人が強く反省していることを考慮され数十年後、

レインは出所することが出来るとのことだった。

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