第37話 最後の戦い
<最後の戦い>
キースとサラはコントロール室の前に辿り着き扉を開けようとした瞬間、
地下空間が萎んでいくことに気づいた。
「これは…??」
サラは後ろを振り返りながらキースに尋ねた。
「恐らくベインの奴がこの空間を消去しようとしている」
「そうなると、ライは!? ライはどうなるの!?」
「この地下空間に押しつぶされてしまう……」
「そんな……どうにか方法は無いの? あなたが作った空間でしょ!?」
「一つだけなら。
この先のコントロール室にある、あるシステムを活用することによって
ライを救出する事が出来る」
「あるシステム?」
「そうだ。僕が以前開発した時間を巻き戻すシステムだ。
そのシステムを活用し、ライだけを救出する。
恐らくベインはライを道連れにしたんだ」
「分かったわ。いずれにせよこの先の部屋に入らなければ
どうすることも出来ないのね」
「その通りだよ。ライを救うためにも、この世界を救うためにも先に進もう!」
キースがそう言うと思い切り扉を開けた。
目の前にはオッドがいた。
足を組んでクリスタルレッドの椅子に座している。
「久しぶり、キース。そして……サラ様」
「兄さん、もう一度だけ言う。この計画を中止して欲しい」
キースはオッドにもう一度お願いをした。
キースはオッドとの今までの思い出を頭に巡らせていた。
小さな頃、兄とバスケットボールをした記憶、料理をした記憶、
システムを開発した記憶、
いつもカッコイイ兄の背を追いかけ過ごしていた日々。
以前の兄との関係を取り戻したい、そう願っていた。
「私からもお願いです。この計画を今すぐ中止にしましょう」
サラは必至にオッドに訴えかける。
「二人の想いは理解している。
しかし、中止にすることは出来ない。
新しい世界を作り上げる為にこの最後のスクリーニングを完了させる。
もう二度と私が経験した悲劇を経験する民を無くす為に、
これ以上、戦争や犯罪を増やさない為に」
オッドは冷静にそう二人に話しかけた。
「兄さん、やはりその考えは変わらないんだね。
人工的な淘汰を行うしかないんだね」
「その通り。この世界の未来の為に……止めたければ力ずくで来い、キース!」
そう言うと、オッドは弓矢でキースに攻撃を仕掛けた。
それは、ただの弓矢では無かった。
矢は波動で出来ており、あたれば間違いなく即死。
キースは間一髪のところで躱した。
「兄さん、望むところさ!」
そう言うと、キースは、両手を握り、祈りのポーズをした。
そうすると光の玉が現れた。
そして、両手をオッドがいる方向に向け光の玉をオッド目掛けて放った。
オッドは弓矢で応戦する。
「キース、やるじゃないか。それは波動の上をいくシステムか?
さすが、私の最高傑作だ」
「その呼び方を止めろ!」
キースは怒りに身を任せ、さらに光の玉で攻撃を仕掛けた。
「それは悪かったな。しかし、お前は私が作り上げた作品なんだ。
サラ様、あなたの父上と私の計画はこのキースがいなければ成し遂げることが出来なかったのです。キースは私が開発した優秀なAIロボなのですよ」
それを聞き、サラはキースが持つ凄まじいスキルに対しての合点がいき、
全てを理解した。
「オッド、キースがAIであろうとも仲間であるという想いは変わりません。
そんなことは問題でも何でもない。
それよりもあなたのしていることの方が問題なのです!」
「サラ様、あなたは王族の血を引きながら、何を甘ったれたことを。
あなたこそ、私と同じ思想を持ち、共に進むべきだと思いますがね」
「いいえ、私はあなたと同じ道は進みません。
私は、あなたではなく、キースと共に進みます!」
「それは残念ですね。
もしや、AIロボのキースに惚れてしまったということはないですかね……
おっと、少ししゃべり過ぎましたか」
オッドはそう言うと再度弓矢でキースに攻撃を仕掛ける。
今度は何千という矢を打ち抜き
キース目掛けて攻撃をした。
今度は躱す事が出来ず、全ての攻撃を受けてしまう。
「ギャァアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
叫び声を上げてキースはその場に倒れ込んだ。
背中からは噴水のように血が噴出し、
何本かの矢は刺さったままだ。
サラはキースに駆け寄って声をかけるが反応が無い。
「おや、キース、もう終わりか。僕の作品はこの程度だったか。
さて、次はサラ様、あなたの番です。
ただ、一つ、あなたが助かる方法があります。
それは、私の妃になること」
オッドは不敵な笑みを浮かべながら言った。
「嫌よ。絶対に。あなたの妃になんてならない。
なるくらいならここで死んだ方がマシよ!」
そう言うと、サラはキースにから貰った光の刃で出来た槍で攻撃を仕掛けた。
しかし、オッドは片手で槍を受け止めてその槍を取り上げた。
「サラ様、このような手荒な真似はお止め下さい。
みっともないですよ。
さぁ、私と共に新世界を作りましょう。
今ならまだ遅くはないです」
「嫌よ!」
サラは力強い眼光と共にオッドを睨みつけて言った。
「それでは、仕方ないですね。あなたもキースと共に死ぬが良い」
オッドはサラの胸目掛けて槍で突き刺した。
その時。
サラの胸元に光の玉が現れた。
光の玉はオッドの槍の攻撃全てを吸収した。
そして次の瞬間、光の玉はオッドの背後に瞬間移動した。
そして、その玉からオッドが放った槍がオッドの背中目掛けて飛んできた。
「グハ!!」
背中で攻撃を受けるオッド。
体から血を噴出しその場に倒れ込んだ。
「兄さん……」
キースは何とか立ち上がり声を放った。
「キース、まさかあの状態から攻撃を出すとは……さすが私の……。
しかし、俺はお前には絶対に……絶対にお前には殺されないぞ……
最後のスクリーニングは間もなく完了する。
いや、この際、全ての意識を消し去ってやる……」
そう言うと、オッドは指で四角をなぞり
その空間からクリスタルブルーのコントローラーを出し、
少し笑みを浮かべた後にスイッチを押した。
オッドの身体は勢いよく爆発した。
「兄さん!!!」
キースは腹の底から声を出し叫んだ。
「キース、生きていたのね! 大丈夫?」
サラはキースに駆け寄り言った。
「皮肉なことに……兄さんが頑丈に作ってくれたお陰で何とか助かったよ……
それより……サラ、マズイことになった。
このスイッチで兄さんは自爆し、
且つ、最後のスクリーニングは当初の予定とは変更となり、
今保管されている意識全てが消去されてしまう!」
「それじゃ……キース、このままだと……民が死んでしまう……」
サラは、涙を流しながらキースを見つめている。
「サラ、出来る限りのことはやってみる」
キースはそう言うと、
コントロール室にあるエメラルドグリーンの丸い水晶の元へ向った。
「これは……?」
サラは初めてみる綺麗な水晶に見とれながらキースに問いかけた。
「この国の全てを管理している全AIをコントロールする神のような存在のものだよ。名前はこの星の名前セルカークから取られた『ルカ』。
兄の計画によれば、
最後のスクリーニングも格納器も全てこれで管理されている」
そう言うとキースは作業を開始した。
先ずは、過去に巻き戻し、地下道空間を蘇らせることに成功した。
そして、ライだけを抽出した。
「これで……ライは大丈夫だ!」
「ライは無事なのね!」
「うん! 大丈夫! あとはスクリーニングシステムだ!」
セキュリティシステムを解除しようとするが、
セキュリティシステムは高難易度を極め、
何を行っても解除することが出来なかった。
ディスプレイを見ると残り時間が十分となっている。
そして、キースは作業をするうちに一つの答えを導き出した。
「サラ、お願いがある。
スクリーニング完了まで残り十分しか無い。
そこで、君にお願いがある。冷静に聞いてくれ」
キースはサラの目を真っすぐ見つめながら伝えた。
「キース、分かったわ」
「このシステムの解除のカギは僕自身だ」
「どういうこと?」
「セキュリティシステムを解除するには僕の意識を『ルカ』に入れる必要がある」
「それはつまり……」
「そう、僕が『鍵』となることでスクリーニングを止めることが出来、
そして、民の意識を肉体に戻せるということ。すなわち僕は……」
「キース、それは駄目! 絶対に駄目よ! 受け入れられない……」
「サラ、しかし、それをする以外に方法は無い。
全ての可能性を洗い出した結果これが唯一解除出来る方法なんだ」
「あなたのお兄さんは何故こんなことを……」
「恐らく、兄は僕の……僕の覚悟を……覚悟を見ているんだと思う」
「覚悟……?」
「そう、この先の未来を作り上げる勇気や覚悟はあるかと。
兄が持っていた覚悟、その覚悟を僕が上回ることができるかと」
「でも、キース、あなたと共に未来を作る、そう約束したじゃない。
私は嫌……嫌よ……絶対に……」
ディスプレイの時間は残り五分を表示している。
「サラ……もう時間が無い。お別れの時間だ。
僕からの君への最後のお願いは、この国の、この星の未来を、
君から、民に伝えて欲しい。託したよ、サラ」
「キース……」
サラは涙を止めることが出来ない。
「僕は、世界の為に生きられることを嬉しく思うよ。
それと、僕は生まれてからずっと両親も友達も恋人もいなかった。
でも、この戦いで君やジェイド、ロック、ライ、ヒョウに出会えて友達というもの、本当の仲間というものを知ることが出来た。
ジェイドが料理を準備してくれた時、
お父さんってこんな感じなのかなって勝手に想像したりなんかしてさ。
本当に、本当にありがとう。
共に世界の為に戦えて嬉しかった。
僕はオッドが憎しみ中から生み出した復讐する為のAIロボ。
でも、これを阻止することが出来れば僕は優しいAIロボと呼んでもらえるかな?
今、この瞬間も、不安じゃないと言えば嘘になる。
でも大切な、大切な君たちを想うと、未来の君たちの笑顔を想うと、
乗り越えられる。
そして、約束する。
僕たちが目指した未来を叶える為に
僕がこの意識をこの水晶に入れることで
この先もAIシステムが暴走しないように見守っているよ。
僕を側に感じて欲しい。
そして、これを約束通り君に」
青い翼のデザインのピアスをサラにつけた。
「キース……これは……やはりとても素敵ね……一生大切にする。
ありがとう……あなたに、あなたに出会えて本当に良かった……
あなたはとてもとても優しくて、そして、誰よりも勇敢よ」
二人は強く抱きしめ合い、そして唇を重ねた。
「もう泣かないで……最期に君の笑顔が見たい」
ゆっくり重ねた唇を離すとキースは微笑みながらサラにそう伝えた。
キースはサラの涙を拭い軽く肩に触れた後、作業を再開した。
キースは意識を水晶に転送し、
肉体からはゆっくりと力が抜けその場に倒れ込んだ。
表情は優しく、かすかに微笑んでいた。
エメラルドグリーンの水晶は赤色に色を変えて
最後は青色に色を変化させていった。
そして、ディスプレイの表示が切り替わった。
『スクリーニングシステム 中止』
「キース! キース!」
サラは泣きながらキースの身体を手繰り寄せた。
「サラ様!」
サラは振り返り、声の方向を見るとそこにはライが立っていた。
「ライ……キースが……」
サラはキースが鍵となったことを伝え、
そして、スクリーニングが中止されたことを伝えた。その時、通信機が鳴った。
「ライさん、ライさん! 聞こえるかい!」
声の主はヒョウだった。
「ヒョウ! そちらの状況はどうだ?」
「こちらは、肉体に意識が戻ってきている。
民は混乱していないです! お陰様で兄のレインも大丈夫です!」
「そうか! それは安心した! ジェイド将軍や、ロック中将は無事か?」
「それが……」
ヒョウは、ジェイドが亡くなったこと、
ロック中将は重傷を負ってはいるものの
キースから貰っていた傷薬で何とか持ちこたえていることを伝えた。
そして、
ライも自分やサラ、キースに起きた出来事や状況を伝えた。
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