第35話 役員
<役員>
執行役員は両手には長い爪があり、
AI警察よりも二倍の速度と攻撃力を持つタイプだった。
ジェイド、ロック、ヒョウは苦戦を強いられていた。
熱線型ライフルで応戦するが、なかなか攻撃が当たらない。
執行役員の一撃がヒョウに命中し
ヒョウのローブに爪痕が残る。
「ヒョウ!!! 大丈夫か!!!! くそ!
あいつら速度が半端ねぇ! ロック、お互い左右に散らばろう!」
「将軍、了承です!」
ヒョウは床で気絶しているがかすかに息はしていた。
キースのローブが無ければ間違いなく身体が引き裂かれ死んでいただろう。
ジェイドは考えていた。
——どのようにすれば倒すことが出来るのか——
考えている間にも執行役員は大きな爪を起点とした攻撃、
そして、爪の先から黒い波動を出し応戦してくる。
その攻撃の中で一つ弱点を見つけることが出来た。
それは、波動を出す一瞬構える時に隙ができる事、
頭を狙う時以外は防御が無い事。
——速度が早い為、
その一瞬の隙をつくしか他に方法は無い——
思考を重ねたジェイドはロックに一つお願いごとをした。
「ロック、あいつらは物凄く速い。
手から放つ波動の威力も半端ねぇ。
しかし、波動を放つ一瞬の間がチャンスだ。
そこを狙い撃ちしたい。
狙撃はお前の方が間違いなく上手い。
俺はノウェルがいるほうに全力で向かい攻撃を仕掛ける。
その時に執行役員は間違いなく彼女を守る為に俺に攻撃を仕掛けてくるだろう。
その時の一瞬の隙を見つけてお前の手で狙い撃ちして欲しい」
「将軍、承知致しました。
かなり危険な賭けになりますが、
確かにこのままでは埒が明きません。絶対に仕留めます」
「頼んだぞ。あと、狙うなら頭だ。
アイツらは頭以外は防御しない。
ということは頭が急所だからな」
そういうとジェイドは全力疾走でノウェルの元へ走った。
その時予想通り、執行役員は爪から黒い波動をジェイドに向けて放ってきた。
ドドドドドドドドド!
その一瞬の隙をロックは見逃さず
執行役員の頭に目掛けて熱線型ライフルを撃ち込んだ。
「よっしゃ!」
ロックの攻撃が命中した。
執行役員はその場に倒れ、身動きが取れなくなった。
「将軍! やりましたよ! 将軍の予想通りでした!」
歓喜の声を上げ、
ジェイドの方を見るとノウェルの剣と化した手に刺さって吊るされている。
「将軍!!!!!!!!!!!!」
「あら、残念な事。執行役員は倒せたけど彼は犠牲になってしまったヨォ」
彼女は声高々に笑っている。
「貴様!!! 許さん!」
ロックはそう言うと、ノウェルに左斜めから切りかかった。
「そんな攻撃では私は倒せないヨォ」
彼女はそう言うと、
ジェイドが刺さっている手とは逆方向でロックを刺し、そして時計回りに捻った。
ブシャー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
沢山の血が彼女の顔に勢い良く飛び散った。
「さて、お遊びはここまで。
あとはオッド様からの連絡を待って、
真の悪性遺伝子の肉体を消去するとしヨォ」
ノウェルはこう言うと顔についた血を長い舌で舐め回し、
味わい、そして、楽しそうに手に刺さったジェイドとロックを放り投げた。
——力が……力が入らない……ちくしょう……この程度なのか俺の力は——
ロックは瀕死の状態でもがき苦しんでいる。
気が遠のいていく中、頭の中にジェイドの声が鳴り響いてきた。
——おい、ロックその程度か? そんな事では軍には入隊出来んぞ。
お前はいつも、もうちょっとの所で諦める癖がある。
確かに生きていく中で諦めなければいけない時もある。
しかしそれはこれ以上無い、精一杯の努力をした者だけが許されるものだ。
お前はまだそこまで頑張っちゃいない。
やり遂げろ! 逃げるな! 必ず俺を超えていけ! 分かったか! それでは稽古を続けるぞ! さぁ、来い!——
「ジェイド……将軍……そうでしたよね。
限界のさらに一歩先、そこまでいけて我々は最強のオール軍!」
ロックは最後の力を振り絞って何とか立ち上がり、
立ち去ろうとしたノウェルに言った。
「待てよ……俺はまだ死んじゃいねぇーよ……」
彼は腹部から血を垂れ流しながらかろうじて立ち上がった。
「あらま……意外としぶといわね。
それでは死ぬ前にもう一つ絶望を見せてあげますヨォ」
そういうと、ノウェルは顎のイボのあたりを触った。
そうすると倒れていた執行役員がゆっくりと起き上がった。
「君たちは上手にこの役員を倒したがこの二人は特殊でね。
死んでも部品としては活用出来るんだヨォ。見ていてね」
ノウェルはそういうと同時に執行役員は分解され、
彼女の身体をその部品が囲むと、
彼女の身体の一部となった。
今までの体型と比較するとおおよそ三倍ほどの大きさまで膨れ上がった。
「爪の長い、でか狸じゃねーか……」
ロックは見上げながらそう言うと、
熱線型ライフルを手にノウェルに攻撃を仕掛けた。
しかし、彼女は身体が三倍になっただけでは無く、
スピードも三倍の速度になり、
ロックは目で追う事が出来なかった。
ノウェルは全てのライフル攻撃を躱し、
両手を左右に広げ、勢いよくXを描くように爪を交差した。
すると、交差部分からドラゴンの形をした黒い波動が現れ、
大きな口を開け、空を駆ける様に勢いよくロックに向かっていった。
「ギャー!!!!!!!」
ロックの左腕が黒いドラゴンに噛みちぎられ彼はその場に倒れ込んだ。
「さぁ、本当にお遊びはここまでだヨォ。
もうこれ以上は君も私と戦うことは出来ない」
そう言うと、トドメにノウェルはもう一度波動を放とうとしたその時、
「油断したな」
グサ!
「き、き、貴様……生きて……いたのか……」
ノウェルの視線の先にはジェイドが立っていた。
「将軍……!!!」
ロックは大きな声で叫んだ。
ノウェルは黒い波動を作り出しジェイドに繰り出した。
ジェイドは至近距離からの攻撃の為、
避けることが出来ず真正面から受けてしまった。
ノウェルはその場に倒れ、
ジェイドは遠くに飛ばされた。
ロックはゆっくり、ゆっくり歩きながら、
痛む腕を抱えてジェイドのもとへ向かった。
「将軍!!!!!」
ジェイドの胸には大きな十字傷がついている。
「ロ、ロック、さ、作戦……上手くいったな。
ひ、左腕は大丈夫か……? ヒョウは……?」
瀕死のジェイドは何とか声を振り絞ってロックに語りかけた。
「ヒョウは息をしています。ローブで守られています!」
「ローブ……そうか。良かった……。
俺は最後にお前と戦えて、幸せだ……。
前回の大戦でも心より信頼出来るお前がいたから……戦うことが、出来た……。
お前は、本当に優秀な戦士だ」
ジェイドは前回の大戦時、
ロックにいくつもの危機を救われたことを思い出していた。
「将軍……自分こそ将軍に救われてばかりで、いつも足手まといで……」
ロックもまた最後の大戦、その前の戦の数々を思い出し、
また、ジェイドと稽古してきた日々を思い出していた。
「そんなことはない、ロック。
お前は小さな頃から俺の厳しい稽古に耐えてきた……。
多くの者が脱落する中でお前は軍に入隊し、親衛隊に選抜され、
そして、人を束ねる中将にまでなった。
とても誇りに思うぞ。
俺はこれから少しばかり眠りにつく……。
だからこれからこの星、そして姫のこと、頼んだぞ。
ライと協力して姫を守ってくれ」
「将軍、何を言っているんですか。将軍無しでは無理ですよ!」
「大丈夫だ。ロック……自信を持て……お前……なら……絶対に……大丈夫……だ……」
そう言うと、ジェイドはゆっくり目を閉じ最後の深呼吸と共に眠りについた。
「将軍!!!!!!!! 目を開けて下さい! 将軍!!!!
まだまだ貴方から学ばねばならないことが沢山あります!
お願いです、目を覚まして下さい!!!!」
ロックはその場に泣き崩れた。
そして、大量の出血が影響し、気を失い、
ジェイドに重なるように倒れ込んだ。
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