第31話 生きる


<生きる>


サラ達は合流後、不安な気持ちを抱えながらキースの帰りを待っていた。


その時、遠くから人影が近づいてくる。


ジェイドはその人影に向かって走っていく。


「キース! キースだ!」


ジェイドは後方にいる皆にそう伝えた。


サラは急いで走ってキースの手を握った。


「キース、大丈夫!? こんなにケガをして……」


キースの腕からは血が流れていた。


「サラ……大丈夫……ではないけど……というのは冗談……大丈夫だよ」


「もう、ふざけている場合じゃないわ! 早くこちらで休みましょう」


サラはキースの肩を支えながら並んで歩いた。


「少し先に洞窟があるわ。あそこで少し休みましょう」


サラがそう言うと、ライとロックが駆け出し、洞窟の中を偵察に行った。


「姫、大丈夫です! この近辺に敵はいない模様!

 スペースも十分にありますので大丈夫です!」


ロックがそういうと全員が洞窟の中に入った。


「今夜はもう遅いから食事と休息をしよう」


ジェイドがそう言うと、焚火を用意し料理を始めた。


彼は、いつでも戦争に対応できるように城内で配布されていた小型システムである『デジタル焚火』を使用し火を起こした。


デジタルではあるが、普通の炎と変わりなく暖かく、

そして、料理なども出来る。


料理も彼が所持していた非常用小型システムを使用した。


小型カプセルの中に食器、

食材などのすべてが収納されている。

彼はカプセルを起動し、それらを取り出した。


食器にはAIシステムが内臓されており、

今ここにいるメンバーに必要な栄養を察知し自動で料理を作ってくれる。


今夜の食事は、地球でいう、すき焼きに似た料理だった。


湯気が立ち、甘い匂いが立ち込めている。


「よーし! みんな! 食べるとしよう!」

ジェイドがそう言うと皆同時に食べ始めた。


キースはジェイドが手際よく料理の準備をしてくれた姿を見て

『父親というのはこんな風な感じなのだろうか?』とふと想像していた。


ジェイドには何というか

親分肌のような雰囲気を感じさせる皆を包み込むオーラがあった。


皆が料理を食べ終わると疲労からかすぐに眠りについた。


しかし、キースは一人寝つくことが出来ずにいた。


——僕は、オッドの復讐の為に、憎しみの中から生まれて来た。

僕は、オッドの戦いの為にだけ存在する兵器。

それ以上でもそれ以下でもない。


僕の生きる道には明確な答えがある。

それは民を選別し殺戮する為の技術を生み出すこと——


彼はこの思考を何度も何度も頭の中で反芻していた。


事実を受け入れられなかった。


今まで信じていたものが全て嘘だったことを知り、

何度も何度も乗り越えようとしていたが、

それを上回る速度で繰り返し、繰り返しこの思考が侵入してくる。


しかし、彼は自分に出来ることを深く、深く考えた。

『今の自分に出来ること、それは民を救うこと。

このまま戦いに負けてしまえば僕は確かに殺戮兵器のままだ。

でもこの戦いに勝つことが出来れば……僕は……僕は……』

そう考えているといつの間にかキースも眠りについてしまった。


少しばかり時間が経過しキースが目を覚ますと、

サラが焚火を見つめながらずっと考えごとをしている様子だった。


「サラ? 寝てないのかい?」


「うん……何だか目が覚めちゃって……」


「そうか……今日は本当に大変な一日だったからね……」


「うん……でもキース、あなたが一番大変だったじゃない。

私は大変だなんて言えないわ……」


「みんな、それぞれの場所で全力を尽くして頑張ったんだ。

比べることなんて出来ないさ」


「そうね…」


「サラ、君はこの戦いの先にどんな未来を見る?」


「未来?」


「うん」


「そうね。この戦いをもう最後の戦いにして

宇宙にある星全体でも未だ到達したことの無い平和な世界を手に入れたい。

どこの星も戦争、戦争、戦争の繰り返しだもの。キースは?」


「僕もそうだよ。僕はオッドテクノロジー社のオートメーション技術を開発してきたけれど、

実は星や太陽を作り出す技術も研究していたんだ。

もう九十九%仕上がっている。


これからもし人口が増えてもこの技術があれば大丈夫さ。


それと、これなんだけど、通信機になっているんだ。

遠い宇宙にでも通信出来る。


今後、どこかの宇宙で同じように生きている民がいたら会話してみたいな……

なんてね。子供みたいだよね。でもこれが男のロマンってものさ!

なんちゃって……。


そして、将来的にはオッドテクノロジー社のサービス全てを無料で提供したい。

そう考えている。

これを王族のきみに言うのは心苦しいけれど……」


それを聞くとサラは笑顔で答えた。


「王族は通貨を発行する権限があって、

その通貨の供給で民をコントロールしている。


その部分は私もずっと疑問で父に何度も話をしたことがあったけれど

何も聞いてはもらえなかったわ……。

でも、もう王族だって貴族だって壊滅してしまった。

これは新しい時代へ向かう良いきっかけだと思うの」


キースは王族に通貨発行権廃止を伝えるのは非常識であると思っていた為、

サラがこのように答えたことに驚いた。


「サラ、君のような姫は新しいと思う。

とても柔軟な思考の持ち主なんだね。

軽蔑されてしまうかと思ったよ。


実際に僕はずっと思っていたんだけれど、

このAI技術もオートメーション技術も

オッドテクノロジー社だけで作ったわけではない。


そもそもこの星が生まれて過去にあらゆる民、

先人が創意工夫を重ねたその延長に出来た技術。


もちろん、オッドテクノロジー社は最後の一社として

競争を勝ち抜いてきた訳だけれど、

この先もずっと独占して良いとは僕は思わなくて。


だから、このオッドテクノロジー社のサービスを無料開放して

全員でシェアして生きていきたい。

そう考えている。


過去から続く民の英知をこれから全員で共有していくことが重要だ。


大昔の民が川の水を飲んだり、

木の実を食べていた時のように。


AI、オートメーション技術、

例えば料理でも車でもゲームでもすべて無料で利用できるようにする。


我々はもう仕事をしなくても生きていける時代まで来たんだ。


あとは本当にやりたい事をみんながやっていけば良い。


絵を描きたい者は絵を。


歌いたい者は歌えばいい。


料理に興味がある者はオートメーション技術で学びながら

次はあえて自分で作ってみるというのもありさ。


治安だってAIによって守ることが出来る。


新型のウイルスだってAIテクノロジーによって解析し

自動でワクチンを開発することだって可能さ。


隕石の衝突だって未然に防げる。


だから兄がやろうとしているこの世界の民を選別し、

そして今後支配しようとしていることが僕には理解出来ないし、

何としても阻止しなくてはいけないんだ」


「キース、あなたの考えに賛成よ。

私は王政を廃止したいとずっと考えていたの。

誰かが誰かを支配しているとそれに不満を持った誰かがまた支配しようとする。

その循環を断ち切りたい。

だから、この星に王はもういらない。

そう思っているわ」


「サラ、女王になれなくて良いの?」

キースはいじわるな質問をした。


「なれなくていいわ。私はもう覚悟が出来ているのよ。

何度も何度も父と話してその度に決裂してきたんだから」


サラは過去に父である王と度重なる口論をしたあの日々を思い出しながら

言葉を絞り出した。


「そうか。僕も兄と話したけど説得することが出来なかった。

悔しいけれど。

でも、こうして君に出会えて、

サラとなら新しい世界を実現出来る気がするよ」


「そうね。必ず一緒に実現しましょう! それと……」


「それと?」


「その通信機とても綺麗ね」


「そうでしょ? いつか君にあげるよ」


「ありがとう。必ずだからね」


「うん、約束するよ」


そう言うと二人は手と手をゆっくり合わせ握手を交わし、

平和への誓いを立てた。

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