第21話 三年前
<三年前>
サラは配下の兵士を振り切って王の間へ足早に向かっている。
「サラ様、お止め下さい。この先は入ってはいけません」
ジェイドがサラを止めようするがそのまま突っ切ってしまう。
「お父様にお話があるの! 邪魔しないで!」
サラはそう言うと大蛇の模様が入った大きな扉を開き王の間へ入っていった。
「お父様!」
大きな声でサラが王に話かけると、何事も無いように王は冷静な声で答えた。
「サラ、何事だ。こんな朝早くから」
「お父様がやろうとしている計画はおかしい! 今すぐ中止して!」
サラは物凄い剣幕で王に対して進言した。
「何を言い出すかと言えば、またその話か。
前にも話したがこれは中止することは出来んのだよ。
サラ、きちんと物事を理解して欲しい」
諭すように王はサラに伝えた。
「理解出来る訳無いじゃない。民を何だと思っているの!?
私たちが人工的に選別することなんて許されることじゃない。
友人や家族だって引き裂かれる。
死んでしまう民が、何億人と出る可能性があるのよ!」
「サラよ、友人や家族の記憶もしっかりコントロール出来るのだ。
家族や友人の一人が選別でいなくなっても残った方の民の記憶からは選別された家族や友人の記憶は消去される。
“もともと存在しなかった”ことに出来るのだ。
パニックとならぬよう、しっかり手は打っておる。
心配ご無用じゃ。
これは我々の星が次のステージに向かう為に必要な選別なのだ。
今までの歴史で何度も、何度も度重なる戦争、テロ、犯罪が行われてきた。
私の父も最後の世界大戦で命を落としている。
先ずは民の選別を行い、
次のステージに進むべき優秀な遺伝子のみ残す。
そして、我々は永遠の幸福、理想郷を手に入れるのだ。
そしてお前はそこの女王となるのだ」
全て聞き終えると、サラは涙を浮かべ、声を震わせながら一言呟いた。
「歪んでいるわ」
それを聞くと王はさらに話を続けた。
「何と言ってもらっても構わん。
しかし、全て正論だけでは世の中を変えることは出来ないのだよ。
いずれお前が私の跡を継ぎ、
女王として君臨する時に私が行った偉業を讃えてくれると信じている。
これからは、さらにオッドテクノロジー社と手を組み、
選別後はさらなるエンターテイメントを提供し、
楽しい毎日を民が過ごせるようにしていくのじゃ。
経済も初めは切磋琢磨して世の中は発展したが、
AIが登場したことにより、
もう民が努力した所で以前のように切磋琢磨することは出来なくなった。
努力をしても所詮民の能力ではAIには勝つことは出来ない。
もうそれは健全な切磋琢磨とは言えない。
結果、民は仕事を失った。
それならばせめて民が楽しい毎日を過ごせるように、
エンターテイメントを提供して他に充実出来ることを提供していく。
こんなに民を思っている王は他にはいないと思うがな」
「理解出来ない!こんなこと許されるわけない!」
そう言うと、サラは王の間から走り去っていった。
王はその姿を見つめながら、
自分の父が目の前で無残にも殺された情景を思い出していた。
今でも繰り返し夢の中に映し出される光景。
忘れようとしても、消し去ろうとしても出来ない父の瞳から流れたあの最期の、最期の一筋の涙。
あの日、あの一筋の涙の向こうに誓った真の平和。
——必ず実現させてみせる——
絶対に自分の大切な娘には
こんな悲劇を味合わせまいと王は心に誓っていた。
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