第19話 三十分前

<それよりも三十分前>


転送されたベインは王の間にたどり着いた。


そして、

王の前に立つとベインは一言こうつぶやいた。


「陛下、オッド様より命を受けここに参りました」


そう伝えると王は少し動揺して

「貴様ごときの身分でこの王の間に入ることなど許さん。

何を考えておる! この王の間は私しか入れないように

高セキュリティ化しておるはず。

なのに貴様何故?」


「陛下、何をおふざけになっておられるのですか。

そもそも、そのセキュリティシステムを作ったのは

我々オッドテクノロジー社でございます。

よって、セキュリティを解除することなど容易いのです」


「貴様、こんなことをしてただで済むと思うな! 死刑! 貴様は死刑に処する!」


「死刑ですか。それは随分重たい罪でございますこと。

しかし、このように直接私のような身分の者に

陛下のお言葉で死刑とおっしゃっていただけること、大変光栄でございます」


「貴様、何をイカレタこと言っておる!」


そう声を荒げると同時に王は自分の剣を振りかざした。


グシャ!


右肩から斜めに剣が入りベインの身体は真っ二つになった。


「馬鹿垂れのキツネ顔め。

貴様のような男がこの王と話が出来ること自体おかしなこと。

おい! 誰かおるか! ジェイド、ここへ来い!」


王は大きな声で部下を呼ぶが誰も来ない。


そうすると、目の前に真っ二つに切り裂かれたはずのベインが

上半身だけで浮かびながら王に話しかけた。

腹部からは内臓が垂れると共に大量の血液がポタポタと滴り落ちている。

かすかに背骨だろうか、骨の一部も見えた。

床は一面深紅に染まった。


「陛下、急に何をなさるのでしょうか」


口からは血が大量に溢れ、その血は顎から喉へと伝い、

小さな血の川が胸元まで流れていた。

それはまるで満開のヒガンバナの様だ。


「おぬし、何故生きておる?」


王は状況を理解出来ず、パニック状態に陥っている。

そして、部下の助けを呼ぶために大きな声で叫んだ。


「ジェイド、ライ、誰でも良い! ここに来い!」


しかし、それを遮るようにベインは王に語り掛けた。


「無駄ですよ。王の間から声は届かないようにシステム処理をしております。

誰も助けには来ませんよ。

それでは始めましょうか」


「何を始めるというのだ!」


「選別です」


「選別?」

王は不思議そうに答えた。


「そうです。陛下、王族、そして、貴族を抹殺するように

オッド様より命を受けております。

なので、厳密には選別と言いますか、抹殺ですがね」


「何を言っておる。選別されるのは王である私ではない! オッドと話をさせろ!」


王は感情をあらわにしてベインに告げた。


「オッド様はもう陛下と話すことは二度とありません。

あなたを殺害し、新しい王になるのはオッド様です。

この国の、この星のお飾りでしかない陛下、

あなたはこれからの時代には必要が無いのです」


「何を言うか、小童が! 今までのこの星の歴史で、

最後の国として統一したのは我々一族じゃ! 高貴な血じゃ! 

どの国も全て滅んだ中で唯一残ることが出来た国。

そして、おぬしらのオッドテクノロジー社も

我々と共に成長し唯一残ることが出来た企業ではないか。

オッドテクノロジー社とオール国との長い歴史、

この長い支え合いをお前は知っているのか」


それを聞くとベインは面倒くさそうに、そして、呆れた表情でこう答えた。


「しかし、これからの未来に陛下、あなたは必要無い。

そして、あなただけでは無く、王族、そしてその周辺の貴族さえも必要は無い。

民はもう王、王族に対して何も高貴さを感じてはいない。

昔は神と崇められたあなた方一族。

民を統一するにはその力はとても重要なシンボルであったが、

今やあなたはお飾りでしかない。

そして、態度だけは神のつもり。

オッド様の作り上げる未来に、アナタの居場所は無い」


「貴様!」


王はもう一度、剣でベインを切り刻もうとするが、

それ以上の速度でベインは短刀で王の心臓を一突きした。


「陛下、オッド様はこう言っておられました。『今までお疲れ様』と」


「ふざけ……る……な……」


そう言うと王は絶命した。


ベインは王を殺害すると、

手元の短刀に設置されている赤いスイッチを押した。

それと共にベインの意識はアバターからオッド社にある自分の肉体に転送された。

ベインは肉体に意識を戻すとノウェルに指示を出した。


「ノウェル、それでは攻撃準備を」


「お疲れベイン。それにしても話が長いヨォ」


「うるさい。黙って指示通りやれ」


「はいはい、それでは起動スイッチオン」


そうすると、空を割りその空間から王都三百六十度を囲むように

超大型熱線砲が現れた。


「よし、やれ」


「はいヨォ」


ノウェルはそう答えると発射ボタンを押した。


ババババババババーーーーーーーーーー!

ズドーンン!


何度も爆発音が鳴り響く。

三百六十度のあらゆる方向から王都を連続攻撃し

瞬く間に王都は落ちた。


「完了したヨォ、ベイン」


「ご苦労。オッド様に報告をする。繋げ」


彼女は直ぐにオッドへ通信を繋いだ。


「オッド様、全て完了しました」


「ベイン、ノウェル、よくやった。とても手際が良いな。

完膚無きまでに王都を落とすことが出来てとても満足しているよ。

あとはキースだ。一日も早く捕らえろ」


「承知致しました」


そう答えるとベインはその部屋を後にした。

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