第11話 脱走

<脱走>


頭が痛い。


何だ、この感覚は。


ゲームはどうなった。


確かレインと俺はフェニックスを倒しに行こうとしていた。


しかし、そこにオッドが現れて……


そうだ。

オッドは自分の恋人だったシェリーを殺したレインを見つけたことを喜んでいて、『ラグナ・カリバー』で応戦するも何も役に立たず……

そしたら急に頭上から黒いベールが下りてきて息が苦しくなって……

それから……


「ここはどこだ」


ヒョウは目を覚まし、あたりを見渡した。


目の前には知らない男が何やら機械をいじって作業している。


「君は?」

そうヒョウが話しかけると男は作業をやめた。


「ああ、やっと目を覚ましたか。もう意識が戻らないかと思って心配したよ。

初めまして。僕の名はキース。君の名は?」


「僕の名はヒョウ。レインの弟さ。レインが今どこにいるのか君は知ってる?」


「うん、知っているよ。今彼は僕の兄であるオッドに捕らえられている。

肉体と意識を分離されている状態だ」


「分離? そうか、あの時、オッドは僕ら兄弟にこう言ったんだ。『お前たちを見つけることが出来るとは思っていなかったが神は私の味方をした。

お前たちの過ちは決して許されることではない。

私の愛する人を殺めた奴は私がこの世から抹消する』と。

もう兄はこの世にいないんだろうか……」


「いや、計画通りに兄が進めているのであれば、

彼、そしてその他同様の国民もまだ殺されてはいない。

兄は現段階ではゲーム中で不正を犯した人など危険遺伝子を所持していると考えられる場合はゲーム内や乗り物、SNS内に転送された意識をさらに各納器に転送し一時保管している。

その後に最後のスクリーニングを行い、

意識と肉体をまるごと末梢する予定だ」


「最後のスクリーニング?」


「ああ、兄が考える優秀な民だけをこの世に残す為に、

エデンプログラム内でスコア化し

最後のスクリーニング、いわゆる“最後のふるい分け”にて

本当に危険遺伝子を所持していると判断した場合に

肉体と意識両方を消し去る。


そして、残された民が消えたことによって不思議に思う事がないように

その部分の記憶だけを消去していく。

記憶さえ改ざんしていくんだ」


「確かにレインは悪い事をした。それは間違いない。

でも、国民を選別していくなんて……」


「ああ、僕だって信じたくなかったよ。

兄がそのような計画をしているなんてずっと知らなかった。

こんなことになるなんて」


「僕たち、これからどうなるんだろう。

オッドがこのままでいる訳が無いんじゃないかな」


「そうだろうね。計画を知った僕を殺しに来るだろうし、

君の意識の格納が途中だったから必ず君を捕らえに来るだろう」


「キース、これからどうするつもりなの?」


「僕は最後のスクリーニングが行われる前に選別された民を全員助け出す。

このまま見過ごすわけにはいかないし、一生逃亡生活なんてごめんだからね」


——逃亡生活——


その言葉を聞き、ヒョウは考え込んでいた。

レインと、自分はずっと逃亡して生きてきた。

また同じように逃げ回る人生なんて嫌だ。

でも戦う勇気も力も無い。

どうすれば……


そう考えているとキースがヒョウの顔を覗き込み


「君はどうする? 無理について来いとは言わないよ」


「僕は……でも相手は物凄い数だよね……勝ち目なんてないんじゃ……」


「そうだね。向こうはAI警察もいる。何万という兵がいるんだ」


「こちらは二人……」


「そうだよ。だから無理について来いとは言わないし、

ヒョウの好きなようにしたら良いよ」


「僕は……どんなに悪いことをしていたとしてもレインにはやはり生きて欲しい。そして、生きて罪を償って欲しい。

だから、僕はレインや捕まっている人々を救いたい。

本当はとても怖いけれど。ただ、一つ聞いてもいい?」


「何だい?」


「何か作戦はあるのかな?」


「もちろん。何も無しに兄に戦いは挑まないよ」


自信満々の表情をしたキースの顔はとても頼もしく、

ヒョウは彼となら戦いに勝つことが出来るのではないか、

そう思う事ができた。

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