第7話 二人組
<二人組>
二人組の一人はレイン、もう一人はヒョウ。
二人は貧困の家庭で育ち、小さいころに親に捨てられた。
服も破れた布で二人とも髪はバサバサだった。
顔にも泥のようなものがこびり付いていた。
この国のAI化がどんどん進んだことで両親は仕事を失い、
二人は物乞いをしながら何とか日々を凌いでいた。
毎日毎日ケンカ三昧で、生きていく為に盗みもやった。
ある時、ボランティア団体が救いの手を差し伸べてくれた。
彼らは食事に困ることなく、
衣服も提供され生活レベルが向上してきた。
その団体のリーダーの名はシェリー。
レインとヒョウはシェリーに色々な事を教えてもらった。
夢や目標を持つ大切さ、自分が本当にやりたいと思うことをやる大切さ。
レインとヒョウはそんなことを考えたことも無かったので、
とても新鮮な気持ちだった。
シェリーと特に仲良くなったのはレインだった。
「レイン、あなたは力がとても強いけど、優しさが足りない。強いだけでは駄目なのよ。相手に対する思いやりがないと」
「いや、俺は強さしか信じないね! 優しさが邪魔をして生きていけなくなった奴らを沢山見てきたからな」
「レイン、これからはもっとたくさんの世界を見ていきましょう。そうすることであなたの考えも少しは変わる。私はそう信じている」
「そうかな? よく分からないけど。俺たちは昔から悪いことばかりしかしてこなかった。
学も無いし、難しい話は分からないね」
そうレインがシェリーに返すとシェリーはにっこり笑ってこう言った。
「過去は過去よ。過去を全く無かったこと、消し去ることは出来ないし消す必要も無いわ。私たちに出来ることは過去から学び、今出来ることを一生懸命に考え精一杯やること。“今ここ”の積み重ねがこの先の未来へと繋がるのよ。諦めてはいけない。いつかきっとあなたにもわかる日が来るわ!」
「はい、はい! わ・か・り・ま・し・た」
レインはシェリーの髪に葉っぱをのせてふざけながら答えた。
「もう、レインったら!」
直ぐさま逃げるレインをシェリーが追いかけると
彼はさらに速度を上げてチーターのごとく走っていった。
レインはシェリーに会うたびに色々な事を教わった。
過去の歴史、地理、数学、国語、プログラミング等々挙げればキリが無い程だ。
両親に捨てられたレインは人を信用することが出来ず、
また裏切られるのではないか、
自分と関わる人はみんな自分の側からいなくなっていくのではないかと常に不安だった。
その為、自分を守る為にも人を信用することは絶対に無かった。
しかし、会うたびに色々なことを教えてくれる彼女に彼は少しずつ心を開き、いつの日かそこには『好き』という感情が芽生えていった。
そんなある日のことだった。
レインは買い物に行く途中にシェリーが男性といるのを目撃した。
彼はシェリーに好意を抱いていたことにより、
今までに感じたことの無い嫉妬が込み上げてきた。
味わったことのない感情。
今まで、盗み、ケンカばかりでこのような感情を持ったことが無かった。
どのように対処して良いか分からなかった。
それほどまでに彼は愛情不足の中で育ってきた。
彼は彼女にあの男との関係を聞く勇気なんて当然の如く無かった。
もし、恋人だったら、自分の気持ちをどこに置いていけばいいのかレインは分からずにいたからだ。
聞いてしまったら、事実を知ってしまったら
自分はシェリーをただ想うしかない。
いつしかレインの頭の中はシェリーの事だらけになっていた。
シェリーとは毎日会える訳では無い。
一カ月に四回程度会えるときもあれば、一回も会えないときもある。
ある日、食事を届けにきたシェリーにレインは勇気を振り絞って聞いてみた。
「シェリー、こないだ買い物に行った時にたまたま男の人といたところ、見たけど……」
「そうだったの。同じ大学の人よ」
「そうなんだ。あの……」
「何?」
「恋、恋人なのかな?」
「そうね」
何だ、そんなことかという表情でシェリーはにっこり答えた。
「そうなんだ」
「何故?」
「いや、別に何でもないよ」
レインは平静を装っていたが、またあの感情が込み上げて来た。
今日もこの感情にどう対処するべきか分からない。
でも、一つ言えることは、シェリーを誰にも取られたくない、
自分だけの物にしたいということだった。
もう自分の側から大切な人がいなくなっていくのは嫌だった。
レインは咄嗟にシェリーを抱き寄せた。
「誰にも渡さない。君は……君は……僕だけの物なんだ!」
そう叫んだ。
驚いたシェリーは
「ちょっとやめて、何をふざけているの! 急に何するのよ!」
「うるさい! 誰にも君は渡さない! どこにも行かせない! 僕だけの物、僕を救う為だけに君はこの世に存在しているんだ!」
鬼の形相でレインは叫んだ。
気付いたときには、思いきりシェリーの首を絞めていた。
細い首にくっきりと、レインの手のあとがついていた。
「レイン! 何をしているんだ!」
振り返るとそこにはヒョウがいた。
しかし、時は既に遅かった。
二人は警察に捕らえられる前にその場から急いで立ち去った。
何キロも何キロも寝ずに走り続け、
そして、
その日から彼らの逃亡の日々が始まっていった。
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