第6話

ハヤトが肩で息をしながら俺から抜けていく。

たくさん愛し合ったから、それが寂しくて物足りなくて、俺は、


「あっ…はやと…はやとぉ…」


スーパーダーリンハヤトを呼ぶ。

俺の声に反応して、ハヤトがぎゅうって、抱き締めてくれた。

俺もハヤトも熱いし、汗でべちゃべちゃだった。

だけど離れたくない。

だから俺もハヤトの背中に手を回す。

あー…筋肉の層があつい…。

そーいや、イケメン五割増ししてる。


そんなことを思いながらハヤトに擦り寄る。

ハヤトも俺を優しく撫でまわしてくれた。


賢者タイムってもんが男にはあるそうだが、俺とハヤトにはあんまりない。

いつまでもイチャイチャしてたい。

だから寝落ちしないで互いをナデナデ。

俺はハヤトとピロートークしたくなって、声をかけることにした。


「あのさ、ハヤト」


「…なんだ」


声もイケメン。

でも、よく聞いたらすこし渋みが足されているような?

ハヤトのイケメン天井知らずだな。


「おれ…わかれよって…いってない?」


「正確には『パーティーを抜ける手続きをしてきた。これでお別れだ。冒険には危険がつきものだ。明日から気を付けてな』と言われた。…どこに、俺と別れようという文面があるんだ?」


首筋や耳、側頭部にキスしながら、ハヤトがやっぱりイラつきながら俺が言った台詞を言い直してくれた。

俺的に良い感じ言ったつもりの言葉。

他者を通して聞くと恋人として別れようなんて、全然含まれてなかった。


「あ…じゃあハヤトは…」


「別れに同意したつもりは無いが?翌朝姿が無く、探そうにも緊急任務が入った俺の焦燥感は理解してもらえるか?」


「…きんにゅーにんむで、ランクあがったんだ…」


「中々パーティーから抜けられぬ、自由の利かない身分になってく俺の気持ちは理解してもらえるか?」


「どーして…あの森に?」


「……ずっと…何処に居たんだ…エイジっ」


「…ごめん…ハヤト…俺…ただ…足手纏いになりたくなくて」


「俺が足手纏いと言ったか?」


「…そうだなー的な、話聞いちゃって」


「…お前にたちには、そうだな、と言った。その後俺には必要不可欠な存在だ、と言っている」


前後のよく聞こえなかった部分で、俺を擁護ラブしてくれてたなんてっ。


「うぅ…はやとっ好きっハヤトっ!」


俺は必死でハヤトに抱き付いた。

ハヤトの辛かった気持ちが理解出来て、本当に申し訳なくって。

どうしたら癒してあげられるのか分からなくて。

ぎゅうって、ぎゅうってする。


「エイジ…どこに…いたんだ…」


「ずっと王都に居たけど…今日、久しぶりに採取に出かけて、それで森に…」


俺の胸に顔を埋め、俺を抱き締めるハヤトが「…今日…?」と呟く。

何か気になるのだろうか。

そーいえば俺も気になってることがある。


「なぁハヤト」


「なんだ」


「俺も気になることがあって」


「なんだ」


「ハヤト、なんか、急に筋肉質になったのな。後イケメンが加速してるけど、何かはじめたのか?」


「…エイジ…エイジが居なくなってから、もう十年経っているんだ。俺も変わるさ」


「…な…にぃ?」


俺は慌ててハヤトを見直した。

ナイトランプの灯りだけれども、スパダリハヤトのイケメンはよく見えた。

確かに、ちょっと大人っぽくなっている。


「俺、もしかして、妖精に、攫われた?」


「そうかもしれないし、導かれたのかもしれない。…俺は魔の神との一騎打ちに敗北し、死んだと思った。ところが妖精が救ってくれたようで」


「まった。ハヤト死んだとか言わないでくれ泣く」


「…ん。敗北した俺は時が止まったのを感じた」


「…時が止まったハヤトに合わせるために、妖精が俺を導いた…?そういえば、俺、妖精に色々貰ったんだよ…それを差し出したら救ってやるって…そっか…妖精さんサンキューだな」


そう言う俺に、ハヤトは渋い顔をした。

イケメンのそういうシワ、かっこい、好き。

俺は自然、シワにキスをした。


「…エイジ…妖精から頂いた物を俺を救う為に、差し出してしまったのか?」


「うん」


「どうして」


「だって、ハヤトが好きだから」


「…エイジっ…」


ぎゅうって抱きしめられた。

改めてきつく。

幸せのハグだ。

もっとぎゅっとしてくれ。


「エイジ…もう二度と…手放したりしない…」


「うん…俺も、ハヤトが言った言葉以外信じない」


「そうしてくれ」


「…俺が居なくて、寂しかったか?」


ハヤトが拘束を一度緩め、俺の顔に顔を寄せて来る。

とても形のよい瞳に俺が映る。

なんて贅沢な鏡。

とけそう。


「魂が死んでいた」


「生き返れ」


「人間はそう簡単に死なない」


「ハヤト、そう言って俺のことめっちゃ抱くのやめような」


「ふふふ…断る」

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